室内を裸足で歩く練習をしなくなったワケ

 これは余談になるが、現在、初台リハビリテーション病院では歩行練習は原則禁止になってしまった。裸足で歩けるのは平行棒エリアだけで、室内を裸足で歩く練習はしなくなってしまった。最も高いリハビリ効果が期待できる方法を、よりによって初台リハビリテーション病院が放棄してしまったのである。現場で働く理学療法士もみな反対する、この誤った措置が取られたのは私が退院した翌年だった。その後、まだ外来で初台に通っていた頃に、事情を知った。なぜこんな愚かな判断をしたのか。じつは厚生労働省からの指導によるものだった。

 「裸足で歩くのは不衛生」

 これが理由だという。現場を知らぬ役所が誤った指導をするのは日常茶飯事であるが、脳疾患のリハビリを専門に行う病院に対して、裸足の歩行練習を禁じることによって失われる価値の大きさと、衛生上の観点から得られるメリットの大きさがバランスするとでも思っているのだろうか。だとすれば、厚生労働省は大バカ野郎だ。霞が関には有能な官僚もいれば無能な官僚もいる。現状を改善する行政指導もあれば、逆に悪化させてしまう行政指導もある。裸足禁止は間違いなく、無能な官僚による致命的な失敗だ。

 そもそも大勢の患者やスタッフが行き来するリハビリルームを衛生的に保つことなど当然であり、初台でも歩行練習が終わった後には、ウェットティッシュで患者の足を綺麗に拭いてくれる。またそれ以前にリハビリルームの床はきれいに掃除されている。すべてのリハビリ病院を対象に投網を投げるように、最高のリハビリの手段を奪ってしまった厚生労働省は万死に値する。膨れ上がる医療費を抑制するという国の方向性にも逆行する愚策中の愚策だ。早急に見直すべきだ。

 さて、もう一度、私自身の話に戻そう。

リハビリが進んでから装具を外した人を見たことがない

 私は「装具を使わない」という選択をした。出来るだけ自然に近いフォームで歩きたいという気持ちが強かったからだが、その判断が間違っていたのではないかと心が揺らいだことは一度もなかった。装具を使わない分だけ、歩行速度がなかなか上がらず、苦労はした。

 なかにはご本人の気力、体力とは無関係に、麻痺の程度が重篤で装具をつけなければまったく歩けない患者もいる。幸いにも私には「装具を使わない」という選択肢があり、また私の選択を積極的に支持してくれる理学療法士たちがいた。

 だが本音を言えば、私は装具をつけることが恐ろしかったのである。