股関節周りの筋力の鍛錬がリハビリの第一歩

 歩行のリハビリの中で一番重視されるのは股関節だ。

 股関節がスムーズな動きをすることで、はじめて人は歩くことができる。股関節周りの筋力を鍛えること、それが歩けるようになるための要諦だ。私の場合、右足の指は、感触はあるものの、まったく動かなかった。足首も動くには動いたが、自由に曲げ伸ばしするには程遠いありさまだった。だが、そんな足でも股関節さえしっかり鍛えれば「歩く」ことはできるようになる。そして歩けるようになると、指先や足首の動きも改善されてくるのだ。

 初台では転院直後から、股関節の運動を延々とやらされた。

 まずリハビリ用のベッドに仰向けに寝る。両膝を立て、小さく腰を上げ下げする。普通なら、どうということのない運動だが、当時の私は右足に力が入らなかったから、自分の力で膝を立て、その状態をキープすることがまったくできなかった。だから理学療法士が馬乗りになるようにして私の両膝をガッチリと抱えて、補助してくれた。正しいポジションをとらなければ、正しい運動にはならないからだ。

 その状態でお尻を上げ下げするのだが、その感覚をつかむまでが難しかった。頑張りすぎて背中がべッドから大きく離れてしまうと、股関節周りの筋力強化にはまったくつながらない。感覚的に言えばお尻の穴をキュッと締める感じで、股関節を小さく持ち上げるのである。

靴も靴下も脱ぎ、裸足になるのが重要なポイントだった

 股関節の訓練にはバリエーションがあり、両膝を立てた状態から右脚だけをゆっくり開いたり、閉じたりといった運動もあれば、両膝を左右にゆっくり動かすという運動もあった。

 また、つま先を上げる運動も必須だった。

 歩く時に、しっかりつま先が上がっていないと、足を前に出そうとした時に、つま先が地面に突っかかったり、地面を擦ったりして、うまく歩けなくなる。硬くなっている足首の柔軟性を取り戻すストレッチも欠かせない。私のように「装具は使わない」という選択をすると、自分自身の力でつま先をしっかりあげなければ歩く事は出来ない。だからこうした地味な運動を地道に、来る日も来る日も続けた。

 もちろん実際に歩く練習も同時並行して行った。初めは平行棒を使った練習だ。その際は、靴も靴下も脱いで、裸足になった。ここがポイントである。

 リハビリとは司令塔の機能を失った脳細胞に、末梢から刺激を入れて再教育する作業である。だから裸足になって、足の裏を直接フローリングの床につけることが最も効果的なのだ。足の指が動かなくても、つま先が思うように上がらなくても、足裏から刺激を与え続けることで、脳細胞と末梢とがわずかずつでも通電していくのである。

 そして平行棒での歩行練習が終わると、最後は杖を持ち、リハビリルームの中を歩く。もちろんこの時も裸足である。1周60メートルほどの通路で、少しずつ歩く距離を伸ばしていった。

リハビリで歩行練習をする際には、靴も靴下も脱いで裸足になった。脳細胞に末梢から刺激を入れるために、裸足になることこそが重要だったのだ。 ※写真はイメージです