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2013年4月29日、当時17歳の桐生祥秀選手は100メートル10秒01の記録を出すが足踏みを続け、10秒の壁を破るまでにそれから約4年4カ月を要した。(写真:アフロスポーツ)

一度「壁」が破られると、心理的限界は消える

 9月9日、福井市で行われた日本学生対校選手権の男子100メートル決勝で、桐生祥秀選手(21歳)が9秒98の日本新記録を樹立した。

 高校3年生で10秒01を叩き出し「10秒の壁を突破するのは時間の問題だ」と言われた18歳は、時に怪我に泣き、思うように記録を伸ばせずにいた。サニブラウン・ハキーム選手や多田修平選手など次々と10秒1を切る新しいライバル達の出現により、日本選手権の決勝では4位。7月に開かれた世界選手権、個人種目の代表メンバーから外されるという屈辱を味わった直後の快挙であった。

 従来の日本記録は1998年のアジア大会で伊東浩司がマークした10秒00だったから、それから日本人が「10秒の壁」を突破するまでに19年もの歳月を要したことになる。

 私も中学校時代は陸上の短距離をやっていた。中3の時には、東京都の代表で全国大会に出場したこともあり、100メートルには特別な思いを持って見てきた。正直なところを言えば、まさか日本人が100メートルを9秒台で走る日が来るとは、数年前までは思いもよらなかった。だが一度「10秒の壁」が破られてしまうと、長いこと日本人アスリートの前に立ちはだかってきた心理的な圧迫は消え、9秒台で走る選手が続々と現れてくるだろう。

 事実、桐生選手の9秒台突入直後、山縣亮太選手は追い風0.2メートルで10秒00をマーク。桐生選手と同じ追い風1.8メートルで試算すると9秒87が出ていたことになるという説もある。日本人アスリートの9秒台は「夢」から「日常」へと変わっていくに違いない。

リハビリの世界で10秒を切るということ

 じつはリハビリの世界にも「10秒の壁」がある。

 アスリートの世界と比べればとんでもなくスローモーな話で恐縮だが、10メートルの歩行速度が「10秒」を切ることが重大な意味を持っている。「10秒の壁」を突破できるようになれば、歩行中に転倒してしまうリスクはもうないと判断される。