不整脈治療薬で血圧が下がり、疲労は頂点に

 脳梗塞になってまず入院した急性期病院で、1日60分ほどの、しかも緩いリハビリしかやっていなかった私にとって、転院した後の初台リハビリテーション病院でのリハビリはまさに猛特訓だった。じつはリハビリを必要以上に苦しくさせたのは、不整脈の治療に使われる「メインテート」という処方薬だった。

 不整脈が脳梗塞の原因ではないかと疑われていたために、それを改善する目的で処方された薬なのだが、メインテートは血圧も下げる効果もある。私は元来、血圧は正常で、高い方で110~120mmHg程度であった。ところがメインテートを服用すると、血圧が80~90mmHgくらいに下がってしまう。脳梗塞の再発防止とはいえ、これほど低血圧になると、リハビリによって感じる疲労感が凄まじいものになってしまう。

 転院直後の私はふらふらになりながら、それでも、前に向かって本格的なリハビリがついに始まった喜びと安堵感が入り交じった気分が日を追うごとに大きくなり、高次脳機能障害に対する不安は消えていった。本も読めるし、短期記憶にも問題はないし、感情も制御できていた。

先行きに対する不安が、影のように拡がって

 「頭だけは正常でいて欲しい」

 急性期病院から初台リハビリテーション病院へ転院直後まで、私が抱いていた心配は、ハードなリハビリ生活の中でごく自然に消えていった。

 ところが入れ替わるように、今度は自分の先行きに対する不安が影のように胸の内で拡がってきた。

 リハビリをすればするほど、いやおうなく右半身麻痺の現実を直視させられる。病院内の移動もすべて車椅子。肩が亜脱臼状態でダラリとして、まったく動かない右腕。話は出来たが、声量は落ち、口も上手くまわらない。

 私はハードなリハビリを心の底から望み、リハビリ時間以外も自主トレに励んだが、今日頑張ったからといって明日結果が出るというものではない。

 リハビリによってどこまで回復できるのか。

 取材をし、原稿を書き、テレビや講演会で発信していく自分のスタイルで社会復帰するまでには、いったいどれほどの時間がかかるのか。

リハビリのための施設・設備。※イメージです。

生来のポジティブ・シンキング、しかし夜になると気持ちは…

 私は生来「ポジティブ・シンキング」で、精神的に大きく落ち込んだ経験がない。「悩んでも解決しない問題は悩まない」ことにして、生きてきた。だが今度ばかりは事情が違った。これまで経験したことのない、絶望的な状況だ。絶対に復活してやると強い気持ちでいたが、夜、一人きりになると気持ちが揺れた。

 病院の夜は不安を増幅する。

 自分の精神が崩れてしまったら終わりだ。私は「悩んでも解決しない問題は悩まない」を貫徹することが、窮地を乗り越える最良の策であると自分に言い聞かせた。そして私が決めた事は“外界”の情報を完全にシャットダウンすることだった。