「待ってました」と勇んでそのテストに臨んだと言いたいところだが、実際はかなりヘロヘロな状態だった。急性期の病院での3週間、精神的ショックに加えてその大半の時間をベッド上ですごしていたために、体力も筋力も想像以上に衰えており、理学療法のリハビリが終わった段階で私は消耗しきっていた。

 何もこのタイミングで「高次脳機能障害」のテストをやらなくても良いのにと恨みがましくも思ったが、それでも気を取り直してテストに臨んだ。ところがそのテストは、2枚の絵を見比べて違いを指摘しろとか、ブロックを指定の形に組みかえろといった単純なもので、本格的に脳の機能障害を判定するものではなかった。

「頭だけは正常であって欲しい」と願い続けた

 「今の段階では問題はなさそうですね。高次脳機能障害については1カ月半後に詳しく調べることになります」

 担当してくれた作業療法士の説明を聞いて疲れが倍増した。自分の脳は正常に機能していることのお墨付きが、またもや先送りにされてしまったのだ。

 取材対象を徹底的に調べ、実際に現場を訪ね、関係者の話を直接聞き、それを文章やテレビの構成に仕上げていくことを生業とする私にとって、脳の機能障害は恐怖以外の何物でもなかった。

 脳梗塞がもたらす麻痺の症状は千差万別であり、また患者一人ひとりの年齢や職場環境、家庭環境、そして何より人生観によってその受け止め方もまるで違ってくる。リハビリと一言でいっても目指すゴールセッティングは人それぞれ違うのだ。

 経済ジャーナリストとして完全復帰すること──。私はそれだけしか考えられなかった。

 だからこそ「頭だけは正常であって欲しい」と切実に願い続けたのである。

次回に続く)