「高次脳機能障害」なんて自分とは関係ないと思いたかった

 これほど重篤な事態が頭の中で起こっているのだから、言語、記憶、思考などの脳の機能に何も問題がないとは確信が持てなかった。

 リハビリ病院に移る前、急性期の病院に入院中に、私は脳梗塞に関する書籍をAmazonで買いまくった。脳梗塞とはどんな病気なのか。脳梗塞という病気の全体像を知るために、専門書から個人の体験談、リハビリのハウツー本に至るまで、とにかく買いあさり、読みあさった。

 その中で「高次脳機能障害」のことを知った。文章を読み、内容を理解し、記憶する。それを繰り返し確認することで「高次脳機能障害」は自分には関係のないことだと思い込みたかった。

 ところが急性期の病院では、医師もリハビリスタッフも誰1人として「高次脳機能障害」のことを話題にはしなかった。私がその言葉を医療スタッフから初めて聞いたのは、リハビリ専門病院に転院する前日だった。言語療法士によれば「高次脳機能障害」の有無が確定するまでにはしばらく時間がかかると言うのだ。つまり、言い換えれば、「今正常だと思っている脳の機能が、時間差を置いて異常をきたしてくる可能性もある」ということに他ならない。

 右半身麻痺となり、トイレに行くにも車椅子で看護師の手を煩わせ、食事や歯磨きも介助なしにはできない現実のなかで「頭だけは正常であってほしい」という願いが、ざっくりと断ち切られたような思いがした。

驚きの連続だったリハビリ病院への転院初日

 そして迎えた2015年の3月3日。

 転院初日は驚きの連続だった。リハビリ専門病院とはいえ「病院」である。MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)による頭部の検査、レントゲン検査などが行われる。急性期の病院からの申し送りによって病状はあらかたわかっているとはいえ、現状をより正しく認識するために独自の検査が行われるわけだ。しかし信じられないことに、検査のスケジュールは入院初日の最後の最後に追いやられていた。まずはリハビリなのだ。

 病院に着くやいなやベッド上で医師による体のチェックが行われる。実際に手足を動かしながら細かく麻痺の状態を確認して行くのだ。それが終わると、すぐにリハビリが始まる。365日休みなしの厳しいリハビリが初台リハビリテーション病院の特徴だとは聞いていたが、入院初日からリハビリがすべてに優先する姿勢は、まさに私の望むところだった。

 リハビリは3つのカテゴリーに分かれて行われる。歩行訓練を中心とした理学療法。手や腕の動きを扱う作業療法。話し方や発声を訓練する言語療法。高次脳機能障害は作業療法と言語療法にまたがる領域だが、入院初日の作業療法の時間でいきなり高次脳機能障害の簡単なテストが行われた。