入院中という環境の下ではできることにも限度がある。食事や入浴も含め1日のスケジュールが詳細に決められているため、時間的な制約が大きい上に、病院外に自由に出かけることもできない。いかにして効果的な「休息」をとるか。元気にリハビリに臨むためには何ができるか。考え抜いた末に、私はふたつの結論を得た。もちろん入院中だから勝手な行動は許されない。自分が入院しているフロアの責任者である医師に相談した。
ひとつはニンニク注射など、身体力回復の助けとなる医療的な措置をしてもらえないかという提案だった。じつは私には不整脈対策として「メインテート」という薬が処方されており、これが結果的に血圧を大きく低下させ、疲労感を倍増させていた。
「医学生時代にこの薬を飲んで柔道をやらされたことがありましたが、ものすごい疲労感を経験しましたから、おっしゃることはよく理解できます」とその医師は共感こそしてくれたものの、疲労回復のための特別な措置はこの病院では何もしていないと否定されてしまった。
「鍼灸師による施術を許可して欲しい」と提案した
2つ目の提案は鍼灸師による施術を許可して欲しい、だった。
脳梗塞になってしまって何をいいやがると言われてしまいそうだが、私は常日頃から自分の身体には人一倍気を使ってきた。人間ドックは毎年かかさずに続けて受けてきたし、脳ドックやがんマーカーもやってきた。今振り返ってみると、とんでもないほどオーバーワークだったし、相当ストレスフルな生活を送っていたものの、疲れを引きずらないようにするためにマッサージや鍼灸治療もこまめに通っていた。
マッサージについては、ヨーロッパで修業しホテルオークラ(東京都港区)で「ゴッドハンド」の名を欲しいままにしていた方に、独立開業された後、約10年間お世話になっていた。しかし、あいにく私が入院中、彼女は出産間際で施術は困難だった。このため、六本木ヒルズ(同)などの中にあるヒルズスパでお世話になり、その後フリーになった鍼灸師の方にお願いしようと考えたが、病院内で鍼灸治療をすることはかなりハードルが高いように思えた。
果たしてフロアの担当医師が認めてくれるかどうか。
「鍼灸の効果はよく理解しています」
担当医師が予想外の反応を見せた。
「私自身が体験的にその効果を知っています。ただ火を使うお灸は認められませんが、針治療ならいいでしょう」

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