今は誰かが作った空想で手軽に満足し、想像力がなかなか育たない。

 今はそうした時間がなくて、決まったレッスンごとにマスターしていきます。確かに知識は身に付くかもしれませんが、それが自分の行動に結びつくのでしょうか。IT(情報技術)の発達で情報は効率的に集められるようになっているので、ますます人間関係は希薄になっていますよね。

 例えば東京大学に入る学生は、激しい競争を乗りこえなければならないので、それなりの知識レベルを持ち、素質もいいと思います。ただし実社会と学生時代に住んでいる世界との間には大きな溝があります。学校は教えることが決まっていて、それをテストで試されて、よく勉強しておけばそれに答えられます。でも世の中に出てみると、課題そのものが分からない訳ですよね。

 実社会で活躍するためには、自分で物を見て、自分で判断する。自分で進路を決めて、その責任を自分で取るという生き方に切り替えなくてはいけません。

 企業の中には「大学は職場に来てすぐに役立つ即戦力を育成すべき」という意見もありますが、それは現実的ではありません。私は東京大学の法学部を卒業し、海外の大学で経済学の修士号を取得しましたが、職場でその知識が直接、役に立ったことはなかったように思います。大学院までも含めて学ぶことは、すべての土台となる基礎に集中すべきではないでしょうか。

全寮制で人間力を高める

 今の世の中で一番弱くなっているのは人間同士の接点です。それを何とかしようという目的から、全寮制の学校を作ろうと考えました。そして、06年にトヨタ自動車や中部電力、JR東海の3社が中心となり、愛知県蒲郡市に中高一貫の「海陽学園・海陽中等教育学校」を開校しました。約650人が共同生活をしながら学んでいます。

 特徴としているのが「フロアマスター制度」です。1棟に60人の生徒がいるハウスを、専任教員である1人のハウスマスターと、2、3人のフロアマスターが運営します。フロアマスターは私たちの学校に賛同する企業の独身男性社員です。毎年、企業から交代で派遣してもらい、各フロアの生徒の生活管理をしながら、人間力を育成してもらいます。

 私の子供を見ても、濃密な人間関係は重要だと感じました。国鉄ですと転勤が結構あり、先々で国鉄の宿舎が固まっています。同じくらいの年齢の子供がたくさんおり、私の子供たちはその中でもまれるので、割と人慣れしていった気がします。

 今は当社の社員でも自分で住む場所を決め、会社が資金援助するという仕組みです。そうすると子供たちは学校と塾以外での人間関係が希薄になります。これを補うのが全寮制のメリットです。海陽学園では個室はありますが、ラウンジが1つなので子供たちが一緒に生活していることになります。

 「学住近接」ですから、時間を有効に使えます。寮の中では、携帯電話やインターネットの利用を制限しています。だからといって硬直的な人間になるとは思いません。かえってネットに拘束されない時間を使って自由に読書を楽しみ、想像力を養うことができるのではないでしょうか。

 ただし、私たちはエリートを育てることを目的とした学校にするつもりはありません。それより、基礎的な知識を身に付け、人間関係の体験や自然の体験を通じて、想像力を育むことを重視しています。そんな子供たちの中から必要に応じてエリートが現れると思っています。リーダーシップは教育で作ることはできません。リーダーとして育つための潜在的素養を与えるのが教育なのです。