連載4回目は東京6大学初の女性総長となった法政大学の田中優子氏。劣等生を自認し、一心不乱に長所を磨くことで総長に上り詰めた。競争がなくても、自分にはできるという「自己肯定力」を育てられると説く。

(日経ビジネス2018年2月26日号より転載)

(写真=尾関 裕士)
Profile
1952年 神奈川県生まれ*1
64年 清泉女学院中学高等学校に入学。学内誌の編集委員を務め、物書きに熱中する*2
70年 好きな文学者がいた法政大学文学部に入学*3
80年 法政大学大学院人文科学研究科博士課程を単位取得満期退学。同大学第一教養部の専任講師に
91年 同大学第一教養部教授
2003年 同大学社会学部教授。江戸文化の研究で著名に
12年 大学社会学部長
14年 同大学総長に就任。東京6大学初の女性総長になる。16年には法政大学憲章を制定
17年 法政大学の志願者数が関東で最多に。明治大学などと学生の単位取得などで提携
*1
*2
*3

 法政大学の総長を務めて4回目の入学試験が終わりました。4月には日本武道館で入学式を執り行いますが、多くの親御さんがいらっしゃいます。同伴したいとの希望が多いので、式を2部制にしたうえで、付き添いは1人の新入生に対して2人までに制限しています。

 我々の時代から考えると、少々驚きます。ただ、地方の親御さんは子供が通う大学や東京の生活を見たいという理由もあるかもしれませんので、さすがに来ないでくださいとは言えません。入学式はイベントですから、付き添うこと自体は大きな問題ではありません。ただ、親は子供との関わりの中で、どこまで保護すべきかをよく考える必要があります。

 保護してはいけないことの第1は、自分で物事を決めるということです。例えば、食べるものから着るもの、学校の選択まで親が全部決めて押し付けることを繰り返していると、子供は自分で決められなくなります。それが一番の問題です。

 社会の先行きがあまりにも不透明ですから、今求められているのは、誰かの命令に従うことではなくて自分で考えることです。だから文部科学省も、入試の在り方を思考力や判断力、表現力という能力を測るものにシフトする方針です。AI(人工知能)時代になると、思考力のない人間は、ますます仕事に就けなくなるでしょう。それでは、企業に入社できたとしても、真っ先にリストラの対象になりかねません。

 自分で考えず命令に従うという性質は、企業の活力をなくすと思います。それは、国全体として非常に困った問題でしょう。ですから、思考力を育てるために、一つの大学ではなく社会全体の問題として小さい頃から自分で考え、決める力を育てなくてはいけません。

競争とは何なのか分からない

 本学の特任教授である尾木直樹先生と対談していると、「自己肯定力」が必要だという話によくなります。それはむやみに自分を肯定するという意味ではありません。自分には決められる、決めたことを自分で達成できるという自信のことです。

 その自己肯定力には「社会的自己肯定力」と「基本的自己肯定力」という2つがあります。社会的自己肯定力とは、主に競争に勝つことで得られるものです。そのため、初めは勝てても競争が別の次元に移ると、勝てなくなる場合があります。AI時代への移行などは、その典型でしょう。そのため、社会的自己肯定力は相対的に揺らぎやすいもので、それだけでは不十分です。