設立したばかりのベンチャー企業(スタートアップ企業)への投資・育成を手がけ、成長をサポートするMistletoeの孫泰蔵社長兼CEO(最高経営責任者)が今、抱く志は「志僑」を集め、起業のエコシステムをアジアに設けること。

 福岡県よりも人口の少ないシリコンバレーで毎年、1万7000社もの企業が新たに誕生するのはなぜか。泰蔵社長は植物の生態系のような循環と拡大の仕組みが出来上がっていることに注目。起業家、ベンチャー企業、投資家、メンター、ベンチャーキャピタルなど様々な立場の人たちがつながり、かかわり、必要な機能を提供し合う場が必要とみる。

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 「志を持て」

 「ピュアに理想を追求せよ」

 起業に関するアドバイスを求めにきた学生や後輩たちにこう答えている私自身も、今、大きな志を抱いています。

 それは、「志僑を集め、起業のエコシステムを形成すること」です。

 志僑は私の造語です。「僑」という字には「海外に出て行った同胞の人たち」という意味があるそうです。中国本土から世界に出ていった華僑はまさにその典型例。信用もお金もない移住先で互いに助け合い、団結し、各地で繁栄を勝ち取ってきました。

 華僑、印僑、日僑などはいずれも民族で結ばれた共同体ですが、私は民族や宗教ではなく、志による結びつきをつくりたいと思っています。「起業家を支援することで新しい価値を世に生み出し、世界を少しでも良くしていこう」という思いを持ち、ボーダーレスに活動する人々を束ね、共同体としたいのです。

 そのお手本となるのが米シリコンバレーです。シリコンバレーには世界各国から「IT(情報技術)の分野で革新的な製品・サービスを生み出し、人類の生活を豊かにしよう」という志を持つ人が集まっています。

 ある種、誇大妄想狂のような人たちばかりですから、クレイジーなアイデアを口にする人もいる。でも、誰もそれを否定しません。逆に「おお、それ、いけそうじゃん! やろうぜ」となる。ポジティブな空気が充満しています。そして、実際にそこからiPhone、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムといった新しい製品やサービスが次々に生まれ、社会を便利かつ豊かなものに変えています。

 シリコンバレーの人口は300万人ほど。私の生まれ育った福岡県は人口約500万人ですから、それよりも少ない。その福岡よりも小さな都市で毎年1万7000社の企業が新たに生まれています。そのうち1万2000社はつぶれたり買収されたりしますが、5000社は残ります。毎年、5000社ずつ純増している格好で、現在、十数万もの企業が存在します。福岡県の1年間の企業純増数は数十社程度ですから、なんと、ケタが2つも違います。