これからの科学者や技術者の目線

 産総研に来てもうすぐ4年になるが、その間にも世界は激しく変化した。大きな戦争は起きていないものの、様々な地域で紛争が発生し、生命が失われ、多くの難民が生まれた。この難民が紛争の一つの引き金となって、不安定さを増している国や地域も増加している。資本主義の成長が限界ともいえる状況の中で、社会から取り残される人たちが多く生まれている。その結果、社会に対する不満が蓄積され、自国優先、他国・他民族に対しては不寛容な対応を取る国が増えて来ている。その一方で、人々は個人に重点を置き、目前の利益に走り、社会的な視野、長期的な視点は失われつつある。

 産業革命以降、社会の発展は科学に大きく依存してきた。社会的課題を解決し、未来に対する指針を示す上で、科学の果たす役割は今でも大きい。資本主義がその発展の陰で多くの矛盾や問題を抱える中、世界の研究者が目指すべきは、もはや単に経済成長のための発明や発見ではない。未来を考える科学者や技術者の目線は、現実を相手にする政治家や経済学者より先を見据えていなければならない。何が「社会の為」の研究となるのか、矛盾を解決しながら持続可能な社会の実現に道筋をつけるには、どうすればよいのか、それをリードしていくのは科学者・技術者の役割である。私は国立研究機関を運営する者として、この一端を担うことを最後の使命と信じている。

 読者の皆さんの中には、ちょうど今、仕事や家族のことで二重、三重の苦労をされている方も多いだろう。繰り返しになるが、苦しかった40代、50代を振り返って言えることは、今は続かないということである。もう少しだ、頑張れ! 私も、もう少し、頑張りたい。


 今回で私の連載コラム「人在りて、想い有り」は終了です。ご愛読ありがとうございました。