「拡大一辺倒」中国シェア自転車の限界

 そうした量的拡大志向のビジネスの圧倒的なパワーと、その弊害の両方が最も端的に表れたのが、ここ数年、日本でも大きな話題となった中国のシェア自転車の狂騒曲であった。

 2015~16年にかけて、ofo (小黄車)とMOBIKE(摩拝単車)のメジャー2社がサービスを北京や上海などを中心に開始するや、両社とも数十~数百億円単位の投資資金をいくつも受け入れ、猛烈な勢いで街角の配置自転車の台数を増やした。18年5月までに北京では190万台、上海でも150万台が投入され、最も多い時期には全国で3000万台を超えたとされる。利用登録者数も17年末には2億人に達した。一時期は「都市部の交通問題を解決する切り札」と絶賛され、中国のメディアは当時、歴史上の中国四大発明(羅針盤、火薬、紙、印刷技術)に続く「新四大発明」の一つと称賛したりもした。

 私も上海ではこのシェア自転車の愛用者で、とにかく安い料金、簡単な手続で街角の事実上、どこからでも乗れ、どこにでも乗り捨てできる便利さは画期的だった。あっと言う間に生活になくてはならない乗り物になった。

 シェア自転車は、利用できる自転車の数が多ければ多いほど利便性が高まり、利用者を囲い込みやすくなる。そのため、上述の両社を中心に、さまざまな企業が入り乱れ、闇雲に大量の自転車を市街地にバラ撒いた。その発想の根底には、たとえ完成度は低くても、スピード第一、とにかく大きく事業を広げ、利幅は薄くても全体として大きな利益の獲得を狙うという発想がある。

 そうやって圧倒的な勢いで規模を拡大し、メディアの注目を集めて新たな投資資金の獲得を図る。さらに利用者からのデポジットや事前チャージ方式の利用料金などでキャッシュを集め、それを事業資金として活用する。そうやって中国のシェア自転車は一世を風靡した。しかし勢いは長くは続かなかった。

 サービスの本格的なスタートからわずか1年ほどで路上に不法な放置自転車が氾濫する事態を招き、社会の強い反発をかった。車両の適正配置やメンテナンス、マナー意識の普及といった地道な仕事をおろそかにしたまま、ひたすら拡大を急いだことが最大の原因である。「公共の交通機関はかくあるべし」という、ごく当たり前の感覚を軽視した結果と言っていい。

 もちろん失敗ばかりではない。いまや中国の決済システムのスタンダードと化しているアリペイ(支付宝)やウィチャットペイ(微信支付)の急速な普及と定着、「中国版UBER」とも呼ばれる配車システムの「滴滴出行(DiDi Chuxing)」の爆発的な広がりなどは、とりあえず目先の問題は後回しにて、大胆に行動して圧倒的な既成事実をつくってしまう中国流経営が大きく実った例だ。

人の生き方を分ける「チリも積もれば」

 「千里の道も一歩から」は心構えとしてはいいが、本当に一歩ずつ歩いて行ったら、飛行機に乗った連中に先を越されてしまう。「点滴」は確かに「石を穿つ」かもしれないが、何十年も待つわけにはいかない。かくして中国の人々は、早く、大きく勝とうとがむしゃらに打って出る。それが功を奏する場合もあれば、うまくいかない場合もある。

 「うさぎとかめ」みたいな話ではあるが、現実にはうさぎも寝ているわけではなく、どっちがどうとも言いきれない。チリは積もったら山になるか、ならないか。ここをどう見るかは意外と奥の深い問題で、それは、日本人、中国人云々に限った話ではなく、人の生き方がここで大きく分かれるように思う。

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「日本人と中国人の間には誤解が多い。
 お互いが相違点を理解し、一緒に仕事をすれば
 必ずWin-Winの関係になれる。
 本書はそのためにとても役立つ」と柳井氏絶賛!

 本連載と、10年に及ぶ「wisdom」の連載の中から厳選・アップデートしたコラムを「スジと量」で一気通貫に編集。平気で列に割り込む、自慢話ばかりする、自己評価が異様に高い、といった「中国の人の振る舞いにイライラする」「あれはスジが通らない」という、あなたの「イラッ」とくる気持ちに胃薬のように効き、スッキリとする。ユニークな中国社会・文化論です。

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