「チリが積もっても山にはならない」

 少し前の話で2005年のことだが、公認会計士の山田真哉氏の著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問から始める会計学』(光文社新書)という本が150万部を超えるミリオンセラーになった。日常的なさまざまな出来事を会計学の観点から平易に解説し、評判を呼んだ本だ。その中に「チリが積もっても山にはならない」という一節がある。その部分を引用する。

「節約は絶対額で考える」とはどういうことなのか、次の事例で見てみよう。

  1. 1000円のモノを500円で買う
  2. 101万円のモノを100万円で買う

ふたつの例のうち、どちらが得をしているだろうか?1000円のモノを500円で買う。これは2倍得したような気分になる。たしかに、割合にしたら50%引きだ。それに対して、101万円のモノを100万円で買った場合、値引きの割合はたったの1% 弱で、101万も100万も額としてはたいして変わらないような気がする。しかし、心を落ち着かせてよく考え てほしい――1万円も得をしているのだ!(中略)このように、費用の削減はパーセンテージで考えるべきものではなく、絶対額で考えるべきものなのだ。

 著者の山田氏はこのように、まず「率」と「絶対額」という観点を挙げ、費用の節減は「率」でなく、「絶対額」で考えなければいけないと説く。これは本稿の趣旨に則して言えば、「スジ的」に考えるか、「量」で考えるか、と言い換えることができる。さらにそのうえで、以下のように続ける。

お金に対してこういったポリシーがない人は、高い買い物をする際に、「101万円も100 万円もたいして変わらないから、お店の人の勧めるほうでいいや」と考えてしまう。家の購入や結婚式の費用などでどんどん出費が増えていくのは、こういう背景があるからだろう。 お店の人も、「家の購入は人生の一大イベントですから」「結婚式は一生に一度ですから」と 勧めるので、なぜか「高くてもいいや」と思ってしまう。そんな人に限って、スーパーでの 買い物で10 円単位をケチったりするのだからおもしろい。こんなことをいうと、「毎日10 円単位で節約することが大切なんだ。『 チリも積もれば山となる』というだろう」というお 叱りを頂戴しそうだ。(中略) しかし、毎日10 円を節約しても1年間で3650円である。だったら、1年で一度1万円 の節約をしたほうがはるかに効果的だ。

 ここで山田氏があえて「絶対額で考えるべきだ」と強調しているのは、日本の読者の中にはそれだけ「率」のほうに引っ張られる人が多い、との認識があるからだろう。実際、日本社会には、山田氏の挙げた例のように、値引きセールで商品を買う時に「絶対額でいくらトクするのか」よりも「何割引か」という「理屈」のほうに強い関心が向く傾向が確かにある。