「信用スコアが低いと結婚もできない」

 このロビン・リーの発言より少し前になるが、アリババグループの総帥、ジャック・マー(馬雲)も、個人のプライバシーに関する発言で物議をかもしたことがある。

 アリババグループには、「芝麻信用(ジーマクレジット)」と呼ぶ、個人の信用情報に基づく格付けサービスがある。同グループの提供するモバイル決済サービス、アリペイ(支付宝)の支払い履歴などをもとに個人の信用度を点数化し、個人を評価する仕組みだ。その「芝麻クレジット」の成長性に関して、2017年1月、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(通称「ダボス会議」)でのニューヨークタイムスのコラムニストとの対話中、ジャック・マーはこんな話をした。

 「芝麻信用のスコアは今後、恋愛の必要条件になる。彼女のお母さんはあなたに対して『娘と付き合いたいなら芝麻信用のスコアを見せなさい』と言うだろう。レンタカーを借りに行けば芝麻信用のスコアはいくつかと聞かれるはずだ。もしあなたが借金を返さなければスコアは下がり、アパートを借りることもできなくなる。もしネットでニセモノを売るような商売をすれば、すぐ信用スコアに反映される。これが私のつくり上げたいシステムだ」(訳は筆者)

 中国国内のメディアはすぐさま「芝麻信用のスコアが低いと結婚もできない、とジャック・マーが語った」と大きな見出しで伝えた。こうしたわかりやすいモノ言いは彼の真骨頂で、人気の秘密でもあるのだが、この発言もまた非常に興味深い。

 ジャック・マーがここで語っていることは、確かにその通りで、「だから自分の信用を傷つけるような行いをせず、真面目に暮らして信用を積み、スコアを上げなさい。そうすれば生活はさらに便利で快適になりますよ」――という話ではある。

 しかし結婚や就職といった微妙な社会的背景が絡む問題で、「(自社の提供するサービスの)スコアが低いと結婚できない」といった発言をし、やや冗談めかした口調ではあるが、それをビジネスのチャンスととらえる、そこには前述のロビン・リー発言と同様、中国社会に特徴的な「プライバシー感」が反映されている。

個人情報の公開にむしろ積極的な人々

 企業家たちがこうした考え方を持ち、それをごく気軽に公開の場で語るのは、ロビン・リーが言うように、そういう気分が社会にあるからだろう。プライバシー保護の重要性は昨今、中国でも知識層の間では急速に関心の対象になってきた。しかし、それはまだ一部の世界に留まる。企業家のこうした発言の反動として「プライバシーは大事なのだ」という意識は目覚めつつあるが、一般の庶民がインターネットの各種サービスを利用する際、自身のプライバシーについて考える例は多くはない。

 私の友人たちの多くは、アリペイで買い物をする際、自分がどこで、何を、いくらで買ったのか、そのことを常にリアルタイムで「監視」され、記録されていることに一種の安心感を覚えている。自分のプライバシーを知られることを恐れるより、自分が不正行為の被害に遭ったり、売り手のミスで損害を被ったりすることを防ぐ効果のほうが重要だと感じている。

 また、芝麻信用のスコアによる「個人の格付け」の問題も、むしろ自分のランクが明らかになることで、「信用できる客」として遇されるメリットがある。さらには自分がよく行く店やホテル、レストランなどが信用度の高い客を集めてくれれば、そのほうが自分は快適かつ安全になる。そのほうがいい、と思っている。自らの信用情報の公開に抵抗感を示す人は、少なくとも私の周囲ではほとんどいない。