手嶋:いえ、サウジの王政を揺るがしかねないテロ組織の首領を引き取るなど、とんでもないと、にべもなく断られます。

清野:サウジ王族の中には、テロ組織にも寄進をして身の安全を図る人々がいる、なんて話を聞いたことがありますが、それでも、ビンラディンはあまりにも危険な存在だったんですね。

手嶋:ビンラディンは、祖国サウジアラビアへの反逆者であり、国籍も剥奪されていましたからね。そこで次にスーダンは、これまた秘密裡に、もう一枚のカードをそっと切ったのです。

清野:どんな外交カードを誰に切ったのでしょう。

手嶋:超大国アメリカです。彼の身柄を引き取ってくれないか、と打診したのです。

清野:よりによって、後に米国に襲いかかる人物を、ですか?

手嶋:だからこそ、引き取っておくべきだったのです。そしてスーダンとの交渉の窓口は、アフリカ問題のスペシャリスト、スーザン・ライスでした。

清野:ここでスーザン・ライスの登場ですか。それはいつのことでしょう。

手嶋:9・11が起こる7年前のことです。ところが、あろうことか、スーザン・ライスは、ビンラディンの身柄の受け取りを断ってしまった。

清野:その交渉が成立していれば、9・11は未然に防げたかもしれない、ということになりますが、どういう理由だったのでしょうか。

「機械工のごとき外交」

手嶋:この段階では、ビンラディンはまだ決定的な犯罪に手を染めていたわけではない。だから、その身柄を拘束し、引き受けるだけの十分な法的根拠がない、という理屈です。

清野:うーん……。

手嶋:封じ込め政策で著名な政治学者のジョージ・ケナンが、米国外交は時に「機械工のように」硬直的だと指摘していますが、まさにその典型でした。

清野:ただ、引き取る根拠がなかったわけですよね。そう判断せざるを得なかったことも、分かるような……。

手嶋:いえ、安全保障とインテリジェンスの視点に立てば、異なる対応があってしかるべきでした。インテリジェンスの戦いは、近未来を巡る攻防なのですから。

清野:スーザン・ライスにしてみたら、そのことは墓場まで持っていきたい秘密では?

手嶋:彼女は燃えるような野心を持っていました。その点で、コンドリーザ・ライスと相通じるところがあります。

清野:野心家ならば、どうしても消し去りたい、すねの傷ですね。

あの小池さんがかわいく見える……

手嶋:それはそうでしょう。ここまで上り詰めるために、相当な政治の賭けに出てきたのですから。

清野:賭け、といいますと。