(写真:ロイター/アフロ)

(前回から読む

清野:北朝鮮のインテリジェンス能力は非常に高い。前回の最後では、そのお話にびっくりしました。私だけかもしれませんけれど、なんか、北朝鮮を「ヘンな国」として、みくびる意識を持ちがちですので。

手嶋:残念ながら、北朝鮮は核ミサイルの開発にいたるプロセスでは、一手も読み誤っていないといっていいでしょう。米国が中東での戦争に、持てる力のすべてを注いでいる現状では、超大国といえども北朝鮮とコトを構える余裕はあるまいと、北の独裁者は精緻に読み切っていたのですから。

清野:そうした構図は、米朝トップ会談が取りざたされるようになった今も変わっていないのでしょうか。

手嶋:大きな流れは変わっていません。北朝鮮は、米国を射程に入れた核・ミサイルを早期に完成させて、体制護持の守り札にしようとしているのです。

清野:手嶋さんに教えていただく中で、今更ながらに調べてびっくりしたことが、もう一つあります。北朝鮮と国交を結んでいる国って、世界で160カ国以上もあるんですね。

手嶋:日本、米国、イスラエル、フランス、エジプトなど、国交のない国は、むしろ極めて少数派です。

清野:英国、ドイツ、カナダ、オーストラリアといった有力な国、それから中東、東アジアのほぼ全域と国交がある。「北朝鮮は世界の中で一人淋しく孤立している」というイメージが大きく崩れました。

手嶋:日本では、足元の東アジアの「今」をきちんと教える教育――この連載流にいうと「直近・現代史教育」がなされていないことの証左ですね。

東アジアに目を向けた唯一の情報機関

清野:そんな素人の私でも、超軍事大国である米国が中東にかまけているうちに、東アジアに不穏な動きが勃発しかねない、ということぐらいはわかります。

手嶋:国家という巨大な組織は、外交機能や情報機能を備えていながら、存外、危機対応は十分でないことも現実です。そして、当時の大統領であったバラク・オバマは東アジアの戦略的空白を放置し、何もしない言い訳を「戦略的忍耐」などと言葉でごまかしていたのです。

清野:オバマはリベラルの象徴で、スター性、話題性があって、カッコよくて、スマートな大統領……ではなかったんですかね?

手嶋:バラク・オバマという政治家については、私は彼が世に出始めたころから知っています。民主党の"ライジングスター"として世に出た時は、確かに輝いていました。それだけに、安全保障分野での凋落ぶりは残念でなりません。

手嶋 龍一(てしま・りゅういち)
NHKの政治部記者として首相官邸、外務省、自民党を担当。ワシントン特派員となり、冷戦の終焉、湾岸戦争を取材。ハーバード大学CFIA・国際問題研究所に招聘された後、ドイツのボン支局長を経て、ワシントン支局長を8年間務める。2001年9.11の同時多発テロ事件では11日間の昼夜連続の中継放送を担った。2005年NHKから独立し、日本で初めてのインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』(新潮社)を発表。姉妹篇『スギハラ・ダラー』と合わせ50万部のベストセラーに。近著に『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』(マガジンハウス)。最新刊は、主要国が少数の政治指導者に強大な決定権を委ねる危うさを警告した『独裁の宴-世界の歪みを読み解く』(中公新書ラクレ・佐藤優氏と共著)。現在は、大学や外交研究機関で外交・安全保障を中心に後進の指導に取り組む。

 話を戻しますと、米国政府には、CIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)、DIA(国防情報局)、FBI(連邦捜査局)など多くの情報機関がありながら、CIAも、NSAも、DIAも、中東での対テロ戦争に目を奪われて、東アジアが長くお留守になっていました。

 ただし、そうした情報コミュニティの中でたった一つ、異を唱えた反逆児がいたのです。

清野:それはどこですか?

手嶋:ちょっと意外に思われるかもしれませんが、米国財務省の系譜に属するインテリジェンス機関がそれです。