清野:意外。イメージとしては、冒険や陰謀が満載でワクワクなワールドだと思っていました。

手嶋:いえ、面白くないことについては、CIAがその筆頭です。

清野:へええ。それまた、どうしてですか?

手嶋:CIAは巨大な官僚組織であるため、情報を取ってくる人と、分析する人が截然と分かれているのです。情報を取ってきた人は、自分の情報がどのように加工され――あの世界では「加工」と表現されるのですが、必ずしもねじ曲げられるという意味ではありません――分析が加えられ、他の情報と突き合わせされ、質の高いインテリジェンスに紡がれていくのか……そのプロセスが、わが手から遠く離れて見えないのです。別な表現をすれば、情報サイクルのパーツの歯車にすぎません。

清野:という情報をどのようにして知るのでしょうか?

手嶋:いやいや、なかなか追及をあきらめてくれませんね。ワシントン郊外の我が家の近所には、多くのCIA職員が住んでいましたからね。みな「我は歯車なり」という表情をしていました。そんな人々を主人公にしても読者は興味を持ってくれないでしょう。

清野:何となーく、はぐらかされている感じもしますが、まあ、先に行きましょう。

手嶋:それに比べて、英国のインテリジェンス・オフィサーは、自分が情報を取り、それを加工して報告書に取りまとめ、次なるオペレーションにつなげていきます。一人の人間がプロセスを見渡しているのですから、とても人間的なのです。

清野:英国はワンオペである、と。

手嶋:物語を描く場合、インテリジェンスのパーツを書いても面白くありません。CIAという組織は巨大に過ぎて、ドラマ性に欠ける。一方で、英国のインテリジェンス・オフィサーは、エキセントリックで、私の趣味にぴったりなのです。

清野:なるほど。

超大国の「戦略正面」

手嶋:それはさておき、土地勘のない世界をいくら眺めても事態の本質にはいたりません。私の場合は、ワシントンを拠点に「東アジア」と「中東」を定点観測するように努めてきました。この二つの地域こそ、超大国アメリカにとって、最も重要な「戦略正面」だからです。

清野:「戦略正面」という言葉は、どういう意味を持つ言葉なのでしょうか。

手嶋:日本と米国との関係、そして足元の現代史を知るために、重要な言葉です。

清野:もちろん漢字から意味は推測できますが、一般にはほとんど馴染みがないのではないかと思います。私は知りませんでした。