手嶋:『ウルトラ・ダラー』がベストセラーとなった同じころに、高い塀をめぐらした"大学院"から、佐藤優さんが『国家の罠』を引っ提げて"降臨"しました。

清野:2006年から08年ごろのことですね。

手嶋:佐藤さんはロシア、私は米国と、それぞれ対立する陣営に連なっていましたから、新潮社のロビーで遭遇した際には、側にいた海千山千ばかりの矢来町の編集者もギクリとしていましたよ。

 その「異星人」を、アバンギャルドな出版人、見城徹さん(幻冬舎社長)が見逃すはずがありません。「幻冬舎新書の創刊を決めました。ついては、NHKに関するインサイドストーリーを描いてもらえませんか?」と、僕のところにいらっしゃったのです。

清野:手嶋さんはNHKものも書かれていましたか?

手嶋:いえ、「NHKの内幕などまったく興味がありません」と、即座にお断りしました。しかし、むろん、あの見城さんが、その程度で引き下がるわけはありませんので、こちらも戦略を練って、かの見城氏をもってしても、絶対に受け入れられない三連打の条件を提示しました。

清野:プチかぐや姫ですね。その三つの条件なるものとは?

売れない条件三連発

手嶋:一つは、対談本でいきたい、と。当時の出版界では対談本は売れない、というのが常識でした。何しろ、対談本が売れたのは、岡潔と小林秀雄の『対話 人間の建設』が最後といわれていましたからね。

清野:若い人にはまったく分からないお名前でしょうけれども、岡潔は世界的な数学者、小林秀雄はいわずと知れた文芸界の巨人。初版が1965年ですから、なんと半世紀以上も前の話ですね。

手嶋:二つめは当時、刑事被告人であり、メディアの敵だった「佐藤優さん」を対論の相手としたい、と。

清野:して最後は?

手嶋:三つめが、本のタイトルを「インテリジェンス」としたい、と。「インテリジェンス」という言葉は、出版界に市民権を有さざることはなはだしい、まるで禁句のようなものでしたから。これなら、さしもの見城さんも150%断るはず、と圧倒的な自信がありました。ところが見城氏は、この条件を丸呑みしてしまったんです。

清野:ほかならぬ手嶋さん側に、インテリジェンスが足りていないじゃないですか。

手嶋:はい、欠けていたのです(笑)。

清野:それが、『インテリジェンス 武器なき戦争』(2006年)ですね。

手嶋:さらに、ここでも私のインテリジェンスには傷があった、ということなのですが、その対談本が売れたのです。今では「インテリジェンス」と銘打った本がおびただしく市場にあふれていますが、潜在的な読者がいたわけです。

清野:面白いエピソードですが、手嶋さんは、どこから精度の高い情報を入手しているのかな~? というのが私の質問でした。