手嶋:米国は世界各地にネットワークを張り巡らして電波・通信のインテリジェンスを集めています。日本政府も「象の檻」と呼ばれた三沢基地の巨大な傍受施設を米軍に提供していました。

 「象の檻」は解体されましたが、米軍はいまも日本の米軍基地を拠点に電波・通信情報の収集にあたっています。ところが、日本は米国の「目と耳」となる施設を提供する一方で、米国がこうして入手した貴重なインテリジェンスは与えられていません。日本は米国にとって東アジアの重要な同盟国でありながら、貴重な情報にはあずかっていないのが現実なのです。

清野:なんと。

手嶋:米国のインテリジェンス活動は、当然ながら自国のためのものであって、日本のためにしているわけではない。さらに、一種の日米不平等体制が、そのインバランスに拍車をかけています。

 典型例が「ファイブ・アイズ」と呼ばれる英、米、豪、カナダ、ニュージーランドの5か国によるインテリジェンス体制です。米国は傍受した情報を、ファイブ・アイズとしか交換していないのです。実は、フランスもドイツも仲間に入れてもらっていません。

清野:米国はイギリスのかつての植民地。その他の国はいずれも英連邦の国家で、五か国とも母語が英語。第二次大戦の戦勝国と、それに連なる諸国ですね。

手嶋:今年で第二次世界大戦が終わって73年。でも、「戦後」はずっと続いているのです。

ニッポンの敗戦をまだ振り返れていない

清野:そういう歴史的な継続が、私の意識には希薄で、高度経済成長期とバブル時代が今でも一種の基準になってしまっています。

手嶋:歴史というものは、それほど簡単に認識できるものではありません。我々が「ニッポンの敗戦」を冷静に振り返るには、気の遠くなるような時間が必要でした。

 ただ、それにしても、インテリジェンス分野でも、政治・外交の分野でも、戦後の日本は、敗戦の教訓を出発点にして、自分たちの課題に真正面から取り組もうとしなかったのだと思います。その結果、国際社会のスタンダードから遥かに後れを取ってしまった。一種のユーフォリア、幸せな幻想の中を漂っていた側面は否めません。

清野:今、ネットを含めて様々なメディアで、北朝鮮がこう行動したのは、こう解釈できるとか、記念日にはこんな行動に出るぞとか、細切れのニュースはあふれていますが、私のような者は情報の海で溺れそうで、事態の本質は何かが一向に分からないでいます。

手嶋:少し過去の射程を広げてみましょう。第二次大戦を経て、世界の盟主の座はイギリスから米国に移り、そこから「パクス・アメリカーナ」と呼ばれる世界体制が続きました。ただし、21世紀になってロシアと中国が再び大国として台頭する中で、その体制は揺らいでいます。アジアでは中国のほかにインドの存在感も強まっていますし、もちろんアラビア半島の情勢も予断を許しません。