意識変化の胎動としては、強い地元志向、共働きの是認と、結婚・出産後も働き続けると回答する女性の有意な増加は、人口減少局面にある日本にとって大きな意識変化をもたらす可能性が高いとみられる。その代わり、出産・育児と女性のキャリア上課題となる問題をクリアしてなお雇用される職場は、平均賃金が低い。女性が働きたいと思っても、それに見合う所得が得られる職場が少なく、また子供を預けて働きに出ようにも受け入れてくれる保育園や学童施設が乏しければ、せっかく回復の兆しを見せる若者の結婚志向にも水を差すことになりかねない。

性差による年齢志向は依然として根強い

 婚活女性における男性の判断基準が年収にあるとするならば、長らく婚活男性の女性の価値は「年齢」にあった。男性の結婚願望に対するハードルである「自分よりも若い女性と結婚したい」という基本的な価値観念から逃れられず、希望する女性に巡り合えないまま30代後半まで独身で来てしまう傾向が強いことだ。結婚相手に求める内容は概して女性が男性に求める傾向が強いが、男性は唯一「容姿」に関しては女性よりも多くを求める[7][13]ことからも、全年齢の男性求婚者の傾向は見て取れよう。ただし昨今の調査では男性の求める結婚相手で同じ年を求める回答が41.9%と10年前の29.4%から激増しているところから現実的な判断になりつつあることが確認できる。逆に、子供を儲けたいと望む男性は半数以上が35歳以下の女性と結婚したいと考えており、これは40歳以上を含むどの年代でもおおむね変わらないことから性差による年齢志向は依然として根強いと言える。

 そして、結婚市場において女性側から年収で足切りをされることになる男性にとって、同級生との結婚や親せき、友人からの紹介が得られない場合、低所得者ほど30代後半以降の結婚は絶望的になっていく。結婚したくてもできない理由は30代後半では過半数が「適当な結婚相手に巡り合わない」であり、男性にとっての結婚資金などの経済問題とあわせて年齢を重ねるごとに「結婚しない理由」から「結婚できない理由」へと変遷していくことになる[13]。

 交際経験のない30代後半や40代の男性求婚者は、20代の若い女性との結婚を望む傾向が強く、同様に30代後半で所得の高い女性は所得の高い男性を求める傾向が顕著になる。交際経験がないがゆえに、自分の商品価値を客観視できないか、長らく求婚活動をしてしまっているので安易にハードルを下げられないまま年を重ねてしまい、結果として結婚できないという事例に陥るのだ。

 これらの生涯未婚の問題は、時間とともに天涯孤独に、そして独居老人の増加という不可逆的な問題を引き起こす。男女ともに、独身が健康にもたらす悪影響は先に述べたとおりであり、2010年には65万人であった独居老人は、2030年には95万人と5割近く増加し、さらにこの結婚できない男女が増えていく[16]。東京都だけで予備軍は300万人、一都三県では480万人から540万人が2030年までに独居老人世帯となって、社会から切り離された健康リスクを持つ層として一角を占めることになる。

政策レベルで、結婚に踏み出せる支援策を

 繰り返し述べることになるが、現代社会においては国民に対して結婚を強いることはできない。本人の意志が如何に結婚をしたかろうが子供を欲しようが、適切な相手と相互に巡り合い、また本人同士の同意があって初めて結婚することになる。その相手が見つからない、相応しいと思う相手から選んでもらえなければ、独身でいるしかない。結婚しないことが本人の選択であり、本人の責任だということは簡単だが、いくら独身を謳歌していても基本的には疾病に罹りやすく死亡リスクが高くて社会保障費を若いころから費消してしまうことは避けられない。また、独身世帯は比較的所得が低く貧困に喘ぐケースも多く、シングルマザーなど母子家庭、父子家庭以外は子供も儲けていないために救済の手段も乏しい。

 それでも日本に生まれ、同時代を生きた日本人として、事前(プレ)と事後(アフター)の対処策は考えていかなければならない。まず少子化対策タスクフォースでも重点課題として取り上げられている通り、結婚を考える若者に対して仕事の安定と家庭を築くに足る報酬をどう保障し実現していくのかという主題が事前対応の主眼となる[17]。しかしながら、政府が国民の結婚を実現するために素晴らしい雇用環境が実現してほしいと願ったところで若者がある日突然結婚できるだけの仕事や報酬が降ってくるわけではない。あらゆる政策を総動員して景気を良くしようとしてもそうはならないからこそ政府の経済成長政策は重要なのである。ボトルネックは就業のあり方や生きるにあたっての将来性を明るく感じられるのかの一点にかかっており、重要であると提言する割にはどのように実現するのかについては極めて困難がつきまとう。

 その点で、合計特殊出生率が日本最低になっている東京都の打つべき方策として、住宅補助など生きるために必要な助成をピンポイントで打てる政策を打ち出すことが求められる。厚生労働省でも家庭と仕事の「両立支援制度」を利用しやすい仕組みや、男性の育児休暇を取れる仕組みなど出産後においての支援は充実してきているものの、その入り口となっている結婚に対して踏み込める支援策が政策レベルでは少ないのが現状だ[15]。次世代育成支援対策推進法にしても、基本的には結婚し、出産が終わった世帯の育児負担を軽減するところに主眼が置かれざるを得ない。結婚後の生活は多少楽になるかもしれないが、肝心の結婚に踏み切るための経済的余裕を実現できる政策はなかなか打ち出すことができないのだ。