日本の少子化の原因は、未婚割合の増加が第一にある。国内で行われるすべての調査や少子化関連の研究が指し示す結論はひとつだ。結婚をした夫婦が子供を産むことがマジョリティである日本においては、子供を増やすにあたって求められることは国民が結婚をすること、同時になるだけ早く結婚し初産を若い年齢で行うこと、夫婦の間で子供を持つ人数をできるだけ増やすことがすべてである。

ひとりぼっちリスクは、死亡リスク

 生涯未婚となってしまう独身男女の人生の一番の特徴は、ただただ早死にが避けられないことだ。未婚者と既婚者を比較した死亡率の差異で見ると、本来死亡率が低いはずの45歳から64歳の未婚男性は同じ年齢層の既婚男性より2.0倍から2.4倍程度高くなる[1]。同じく、伴侶に先立たれた男性も、生活リズムの変化や食事内容の劣化、家庭内での話し合える人の喪失など、女性に比べて高い「ひとりぼっちリスク」を抱えることになる[2]。とりわけ、有意に死亡率が高くなるのは糖尿病や心疾患、肝疾患といった、生活習慣に起因する割合の高い疾病が重症化することだ。それも、独身であるというだけで、25歳以降のすべての年齢層で死亡率が高くなる傾向は特筆してしかるべきだろう。男性ばかりを強調するようだが、女性も男性ほど死亡率が高いというわけではないというだけで、リスク自体は既婚女性よりも高くなっている。

 また、生活習慣病とは別に、同居する人がいない場合の肺炎による死亡リスクが高くなることは考慮に入れておいたほうが良い。肺炎による死亡リスクは45歳から64歳で独身男性が5.1倍、女性が5.9倍とみられる[1]。また、どの年代層も一人暮らしは肺炎の死亡リスクが常に高い。重症化する肺炎による死者の増加は、一重に看病してくれたり通院に付き添ってくれる人物の有無に関係するものと考えられる。突然死や、死後日数が経ってから発見される特殊死亡例も、本人が頭や胸の痛みに気付いて気を失うまでの間に救急車を呼ぶなどの行動がとれなかったからこそ起きることである。生活を安全かつ健康に送っていくうえで「共に暮らす」結婚の重要性は間違いなくあるといえよう。結婚かどうかに限らず、人生において長く同居してくれる人、何かあったときに助けてくれる人がいるかどうかで、全年齢での死亡リスクに大きな変化があることはもっと広く知られても良いことである。

 どちらにせよ、人間は結婚も含め同居人のいる生活を送ることで生活のリズムを整えるだけでなく、発作など不慮のリスクや経済的、心理的不安を緩衝することができるのだろう。日々の語らいや談笑を通じて、将来に対する不安からくるストレスを解消する側面もあるだろう。

340万人が未婚のまま暮らす、2030年の東京

 本連載の前項でも触れたが、高齢社会において未婚のリスクは死亡率に留まらない。もっとも大きいのは認知症や犯罪傾向であり、日々の話し相手が家庭内にいないことで高齢になってから社会から切り離された存在になっていく。若いころに自由で気ままな暮らしを求めて独身生活を謳歌する代わりに、高齢になってから孤独や生きることへの意義を喪失することに繋がる。現代社会は個人の選択を重視する以上、結婚や何らかの同居を強いることはできないものの、両親が死んだら天涯孤独になってしまう日本人が今後激増するとしたらどうだろうか。

 現状では、日本人男性の3人に1人、29%ほどが2030年には独身のまま一生を終える生涯未婚になると予想されている。生涯未婚率は、50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合を指す。同様に、女性は2030年にはおよそ19%ほどになると予想される。2016年は婚姻においてどちらか一方が再婚である割合も26%を占めるまでになった。また、一部の統計ではLGBTを中心として現行の結婚制度には馴染まないが事実上の同居も無視できない割合になっている。これらの現代社会に生きる日本人の生活様式に応じた多様化した結婚・同居像も話題になってきている。結婚だけが人生ではないが、ここまで身寄りのない独身男女が増えてそのまま高齢者になっていくとなると、やはり何らかの社会的な受け皿が必要になっていくであろう。そして、後述するがこれらの独身高齢世帯は2030年には東京都だけで95万人になり、予備軍となる独身世帯は250万人となる。親元に暮らす独身男女を合わせるとおよそ340万人が未婚のまま大都会東京都で暮らすことになり、親世代の死亡とともに相続や"年金パラサイト"で暮らせなくなった独身者が貧困問題を抱えながら家賃の安い埼玉や千葉に転出していく構造が浮き彫りとなる。

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