認知症のケアや緩和で問題をハードランディングさせることなく対応を図っていくことが政策上重要な観点となる一方、具体的に生活能力を失っていく高齢者を地域や家庭で受け止めると言っても相当な困難を伴う。排泄が不可能になったり、徘徊が始まったなどの症状が具体的に出る患者数が、都市部を中心に今後激増することが予想される[8]。

 首都圏各都県および自治体でも、各々保健衛生プログラムの一環として認知症対策を目的とした調査や政策プログラムを実施している。具体的な事例として、東京都でも独居高齢者でもある認知症患者のケーススタディを公開しているが[9]、近隣住民との深刻なトラブルが認知症特有の妄想や周囲に頼る人がいないなどの事情で地域の問題に発展しかねない事例が後を絶たない。

人身事故、その責任と賠償…対策は急務

 また、首都圏でも地方同様に比較的事例として見られた認知症ドライバーが引き起こす悲惨な事故が続発していることに加え[10]、都市型の認知症対策で必須とされているのは鉄道など公共交通機関を巻き込んだ人身事故が頻発する可能性は捨てきれない。最高裁判所まで争われた[11]事例では、徘徊を頻発するなど重篤な認知症患者を介護する家族に賠償責任があるかは重要な論点となった。最高裁の判決では、生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断が下されたものの、認知症患者がどのような事故を起こしても必ず家族が監督義務者に当たらないと司法の判断が下されるかは微妙なところだ。

 行政としては、認知症患者が起こす事故そのものを減らしていかなければならない。事故に巻き込まれて尊い犠牲を払わされる本人や遺族はたまったものではない。先ほど警察庁は高齢者ドライバーの事故が相次ぐことから、免許更新の際の認知機能検査に関する結果を公表している[12]。認知機能検査を受けた運転免許保有者の高齢者約166万3,000人のうち、判定の結果「認知症の恐れ」があるとされた第1分類は暫定値約5万1,000人あまりで全体の約3.1%。調査が厳格化された効果もあるが、2010年の約1万6,000人と比べると実数で3倍以上、免許保有者に占める割合で言えば実に70%増という結果になった。

 この警察庁が自動車免許更新の際に高齢者に対して行う認知機能検査は、極めて簡単なものである[13]。絵を見て覚えているものを答えたり、指定された時刻を時計に書き込むなどの設問が中心であって、これが素早く解けなければ日常生活自立度は極めて低いものと判断される。そのぐらいハードルを低くしても3%の高齢者ドライバーが問題を解けないというのでは、自動車が容易に走る凶器になってしまう危険性は否定できない。

 東京都の事例では、これらの危険な高齢者ドライバーの分類を含めて、何らかの認知症状のある高齢者や見守りまたは支援の必要な認知症高齢者の実態調査を継続して行っている[14]。2013年(平成25年)の調査では、都内で何らかの認知症状を持つ高齢者数は378,192人(前回調査2010年から3年で16%増)、東京都の高齢者人口に占める割合は13.7%であり、全国ペースに迫る勢いで増加を続けている。増加ペースをコホート分析してみると、2030年には東京都の高齢者が現在のペースで増えた場合、65歳以上の高齢者人口は3,497,774 人であり、このうち20.8%、約73万人が認知症状を持つ高齢者となると予想される。この高齢者を支えるために45万人の労働人口が介護やケアのために動員される。

 首都圏全体で言えば、2030年の高齢者人口は一都三県で990万人(神奈川:2,557,863人、埼玉:2,016,056人、千葉:1,821,515人)。高齢化率は千葉の31.4%をピークに平均28%前後になると予想される。ここに、何らかの認知症状を持つ22.1%の高齢者がいるとき、首都圏だけで約219万人が存在する。2025年に700万人、2030年には820万人いると見込まれる認知症患者の4人に1人が首都圏で暮らし、認知症患者の生活を支えるために115万人が何らかの社会保障系の仕事に従事したり、家庭で介護をするという生活を送ることになる。