さらには、日本社会における晩婚化や少子化の影響どころか、結婚そのものをしない未婚割合の増加とそれも価値観として許容する多様性を確保した結果、労働年齢を超えて仕事を離れたり趣味に費やせる可処分所得を失うと一気に社会から孤立する傾向に拍車がかかる。結婚しないという選択は現代社会における個人の責任と自由の範囲内であるが、若くて働けるころは良い。しかし、親の高齢化や自分自身が病気、怪我で働けなくなったとき、さらには自分自身が高齢者になったとき、高齢者犯罪の傾向として顕著な「話せる人がいない」「困ったとき頼れる方がいない」という身寄りのない、切り離された個人が大量に出現するという深刻な状況に直面することになる。若いころの選択として結婚しないと判断して独身を謳歌しながら、いざ親の介護や自身の病気・怪我、さらには高齢になって「こんなはずではなかった」という状況に陥る。結果として、これらの国民の救済は公的機関と地域で受け止めなければならなくなる。

 このような問題や見通しを踏まえて、変遷を続ける日本の社会観、家庭観、結婚観や老齢の親や兄弟、伴侶に対する介護の状況に合わせた「受け入れられる地域づくり」のビジョンが強く求められる。とりわけ所得の低い独身世帯の孤立について、高齢者になり身動きが取れなくなる前に防いでいかない限り、この問題は不可逆的に悪化していくことだろう。この高齢者犯罪の要因に貧困が結び付いたときでも、生活保護の状態に陥った独居老人を犯罪者予備軍とするわけにもいかず、地域との結びつきを強要する施策が実現できるわけでもない。実際、貧困に陥っても犯罪に手を染めることなく慎ましく暮らし一生を終える高齢者は96%以上であり、そのような善良に暮らしている高齢者を疑いに晒す必要はない。

 一方で、不幸にして認知症を患い街角や隣家の畑で窃盗や万引きをしてしまい摘発されてしまう老人や、生活的困窮に耐えられず万引きを犯してしまう老人の現状は、一歩間違えばどのような人物でも間違った判断に追い込みかねない。高齢者が高齢者同士を支え合う、家庭内の老老介護を地域や社会が一体となって共に暮らし、緩やかに老いるコミュニティーを形成するために何ができるのかを早急に模索するべき時期が来ていると言えるだろう。

都市部で増殖する「キレる高齢者」

 ここで改めて、都市型高齢化の懸案となる東京都の状況を整理する。東京都では、認知症を含む高齢者ケアに関する専門家会議や、続発する万引き対策についての検討会が多数開催されているが、東京都の高齢者犯罪に関する特徴、とりわけ伸び率の点では窃盗だけでなく暴行の割合が高くなっている。1992年(平成14年)に比べて12年後の2014年(平成26年)までの傾向を見ると、60歳以上の一般刑法犯のうち暴行がこれは東京都近隣県と比べても有意に高い傾向があり、実数で3.1倍。東京都に在住の65歳以上の高齢者は198万人(1992年)から94万人増の292万人であることから考えても、都市部特有の傾向として人口過密ゆえの粗暴犯の傾向が見て取れる。

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 いわゆる「キレる高齢者」問題は、とりわけ都市圏で集中的に発生し認知されている。もちろん人口が多く認知件数が増えやすい傾向があるのは事実であり、地方と単純な比較はできないものの、粗暴犯の傾向として「見知らぬ人物とのトラブル」は状況認識をするうえで大事なポイントとなる。飲酒の有無は別として、鉄道など公共交通機関で駅員などに対する暴力事件の発生件数は2015年(平成27年)は792件と前年比8件減少したが、年齢別構成割合では60代以上が188件(23.8%)と全年代トップとなっている[11]。うち112件が東京都内で発生していることも踏まえて、都市部における高齢者犯罪への対策の在り方と、釈放後の再犯を抑え込む仕組みについて弾力的に考えていく必要があろう。

 これを踏まえて、次回は日本社会で破壊的に増加すると見られる認知症を患う老人と社会全体の構造について状況を整理し、考察を行う。