積極的な姿勢を示していたつもりが「KY」に

 「あ〜、なんだかスッキリしないな、もう一軒ひとりで飲み直そう」

 たまたま入った2軒目のショットバーのカウンターに座ってびっくり。横に“ずるゆるマスター”のO部長が座っていました。

 「というわけで、E君と話しました。かといって何も解決せず、モヤモヤ感が逆にたまってしまったくらいです」

 「へ? そうだったんだ。ところで、E君はいいやつだな」

 「えっ? どういうことでしょうか? 彼は何かのコネクションがあるのですか? 役員の親戚とか、ですね」

 「違うよ、ははは。E君はキミに答えをぜんぶ教えてくれたじゃないか。だからいいやつだと言ったんだ」

 「どういうことか、何をおっしゃっておられるのか皆目見当がつきません」

 「プロジェクトチームの話からするよ。S君よりも年上の人もたくさん立候補するんだよね? S君のその前向きな気持ちはとても大切だからそれがいけないと言っていると誤解しないで聞いて欲しい。もし逆の立場だったらどうかな。S君よりも年下の人が『私がやります、私がやります』と言っていたら、しかも次から次へと」

 「熱心だなあ、と感心します」

 「だよね。ではそれにもうひとつ条件を付け加えるよ。その年下の彼がS君よりも優秀だったらどうだい?」

 「警戒します」

 「だよね、警戒したらS君ならどうする?」

 「警戒している相手には情報を出さないように、」といったところで「アッ」と思わず周りのお客さんがこちらを振り返るくらい大きな声を出してしまいました。

 「次に社内コンクールの話ね。S君が入社2、3年目の頃って課長補佐の今と同じくらいの社内情報をもっていたかい?」

 「いえ、すべてを情報共有してもらっていたのは係長です」

 「これも逆の立場を考えてみて欲しい。社内情報へのアクセス権限が全く違う上長が同じコンクールに応募してきたら、勝てるかい?」

 「いえ、まず無理です。ということは嫉妬ですか?」

 「落ち着いて、自分としっかりと向き合って考えてみたらどうだろう。社内コンクールは人事部が何を意図して行っているのか? また、嫉妬ではなく、社内情報格差を知った若い人たちの気持ちを」

 「あっ、部長、私はどうしたら……」

 「S君に論語の言葉を授けよう『己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す』。意味はね、自分が自分がと言っていると、それは積極性にはならない場合もある、と覚えておけばいい。そして、自分の方が優れていると思っても、それを態度に出しては絶対にいけない、できるかい?」

 「はい、必ず実行します、ありがとうございます」

 O部長の耳にSさんは「KY」だという噂が入っていました。K空気Y読めないやつ、という烙印を押されかけているのを知っていましたが、ここは自力で解決するためにも痛い目を少しでも味わった方がいいと見守っていました。

 “ずるゆるマスター”のOさんの素晴らしいところは、Sさんに実地で指導したところです。「自分が自分が」と言い過ぎるのはよくないといっても、本当の意味で理解しないと積極性を失うだけです。

 「己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す」。人に警戒感をもたれては何事もうまく進みません。交通安全と同じ、「お先にどうぞ」の精神が実は一番安全で早道なのを“ずるゆるマスター”は知っています。