11月27日の衆院法務委員会、その後の衆院本会議で、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が可決されました。法相などが受け入れについて「数値として上限を設けることは考えていない」と発言するなど詳細は未定ですが、今よりも多くの外国人労働者が来日することになりそうです。
本コラムでもAI(人工知能)に労働力として取って代わられないような対策をお伝えしてきましたが、コンピューターではできない人間がすべき作業が、日本人よりも単価の安い外国人労働者に仕事が流れることが予想されます。定年後に再雇用された非正規社員の待遇について、正規社員との賃金格差を事実上容認する最高裁判決が出たことも、将来の不安を増幅させる要因の一つとなります。
現在、企業業績は悪くない業況ですが、アリとキリギリスの童話の話を持ち出すまでもなく、良い時に来たる冬の時代の支度をしておくのが、身の安全の確保に最適なのは言うまでもありません。
身近な対策は「読書」。華僑が知る意外なメリットとは?
まず身近なところですべきことは読書です。お金持ちの代名詞となっているやり手の華僑たちは、コミュニケーションを円滑にするための読書を怠りません。
「善言を与うるは布帛(ふはく)よりも暖かなり」
『荀子』の言葉です。意味としては、良い言葉を教えてもらうことは、上等な布に包まれるよりも嬉しく暖かな気持ちになる、でいいでしょう。
読書のメリットはたくさんありますが、華僑的読書メリットはあまり知られていません。それは「愚痴を言わなくなる」というメリットです。読書をするとなぜ、愚痴を言わなくなるのでしょうか? その答えは単純で、ボキャブラリーが増えるからです。
例えば、上司に新規事業の提案をしたが、却下されたとします。いわゆる「ボキャ貧」の人は、提案の内容を他の言葉や事例に言い換えたり、次に繋がる言葉や話の展開を変える言葉を見つけたりすることができません。言葉のキャッチボールがすぐに終わってしまうので、不完全燃焼の場面が増えてしまいます。その結果、終業後の赤提灯で同僚相手に愚痴ることになるわけです。そのうえ愚痴も「ボキャ貧」ですから聞いている方も嫌になってしまい、自分の評価を下げる負のスパイラルに入ってしまうのです。
一方、ボキャブラリーが豊富な人は、状況に応じて相手が返しやすいような言葉や予想をいい意味で裏切る言葉を選び、キャッチボールをつなぎながら話の流れを作ることができます。それで主張が通らなかったとしても、上司から納得のいくレスポンスを得ることができますので、気分も下がらず、次の機会へ繋いでいくことができるようになります。
上司も理由があって却下しています。ボキャ貧相手には、いちいち微に入り細に入り説明はしません。お互いのストレスになったり、無駄な時間を浪費するハメになるからです。
ですが、あの手この手でうまくコミュニケーションをとっていけば、納得できるような説明の用意があることは往々にしてあります。「今はこういう理由で無理だよ」「上に通すにはこれこれの実績や数字的根拠が足りない」といった理由や対策を説明してもらえるようになるので、愚痴を発散するために赤提灯の暖簾をくぐることはなくなるでしょう。
読書が苦手だという人は映画でもいいでしょう。ユーモアの効いた映画風のフレーズを使えば、断りづらい要望や依頼も角を立てずにかわすことができます。これも後々引きずらず、「その場」でやりとりを完了させるために役立ちます。
リーダーになるために。第一の条件は至ってシンプル
AI、外国人労働者が増えてもリーダーシップがあれば何も怖くはありません。
私たち日本人は、どんな人がリーダーにふさわしいかを考える時に、性格的な要素に目が向きがちですが、合理主義で現実主義の華僑はその限りではありません。「リーダーの条件」を満たせば、誰でもリーダーになりえます。そのリーダーの条件を満たさなければ、どれほど人気があっても人望があってもリーダーになるべきではない、というのが華僑の基本的な考え方です。
それではどのような条件がリーダーに欠かせないのでしょうか? 第一に周囲を混乱させないことです。『礼記』に次のような言葉があります。
「天に二日無し、土に二王なし」
意味としては「天に二つの太陽が無いように、一国に二人の王がいるべきではない」でいいでしょう。
会社やチームやプロジェクトなどの組織も一国と同じです。指示を出すリーダーが二人いれば混乱するのは当然として、リーダーが一人でもその方針が二つ、三つあれば、リーダーが二人三人いることと同じ状態になってしまいます。リーダーは一本の軸を立て、それを守り抜く。それが組織を守り抜く鉄則なのです。
ここで、慣れないリーダーのために、誤解しがちな2点を挙げておきましょう。
1.「軸がブレる」の誤解
軸の基点さえ動かさなければ、そこから広げるようにして角度をずらすのは「ブレる」ことにはなりません。
筆者の会社のIoT部門でいえば、軸は「中小零細企業のための格安IoT導入」です。
それを無視して高額なIoT機器に走るのはいけません。ですが、関連サービスとしてお客さんの要望に応じて、Webサイト管理やシステム開発の受注に手を広げるのは構いませんし、関連サービスについては価格よりも品質を打ち出しても問題ありません。「私たちは格安IoT機器で世の中に貢献する」という軸さえ変えなければ、部下だけでなく、お客さんも取引先も混乱させることはないのです。
2.「朝令暮改をしてはいけない」の誤解
決定事項をすぐに変更するのは良くないと思いがちですが、自分の決定が間違いだと分かったなら即変更すべきです。決めたことにこだわって部下を道連れにする方がよほど迷惑なリーダーです。「初志貫徹のための朝令暮改」と前置きをして説明すれば、優柔不断という変な烙印を押されることはないでしょう。
「自分頼み」からの脱却もリーダーには欠かせない
祖国を出てゼロどころかマイナスからスタートする華僑が短期間でお金持ちになれる理由の一つに「自分ができる必要はない」という思考があります。次の言葉が参考になるでしょう。
「下君は己の能を尽くし、上君は人の智を尽くす」
『韓非子』にある言葉です。意味としては、リーダーたる者は、仲間の能力を最大限発揮できるような環境を作り、人の知恵を大いに使わせてもらい、全てを融合させてどんどん可能性を広げていく、でいいでしょう。
自分の能力のみに頼らず、できる人の能力を活かせるか? さらに、できない人も有効に使えるか? これがリーダーとしての第二の条件です。
できる人だけの組織など世の中にほんの一握りでしょう。有名企業や大企業でも「できると思って採用したもののできなかった」という想定外をゼロにすることは困難です。できる人を使うだけのリーダーより、できない人も持て余すことなくリソースとして上手く使えるリーダーの方が優秀であることは間違いありません。「できない部下ばかりで」「無能な上司で」と言っている人で、有能な人はいません。
口だけ達者で行動が伴わない、そんな人をどう生かすか
人を使う上でも、リーダーの役割はビシッと決めることです。そこで華僑たちが基本中の基本としているのが、「疑わば用うる勿れ、用いては疑う勿れ」(韓非子)です。
前半部分の「疑わば用うる勿れ=疑わしい相手は初めから使うな」というのが本来の意味ですが、華僑的リーダーは「口ほどにもない人にも使い道はある」と解釈します。
例えば「自分はこんなことを知っている」「あんなアイデアがある」など、語るだけ語って、やらない。知識があり、弁も立つが行動が伴わない、いわゆるノウハウコレクタータイプの人がいますが、このようなタイプに「じゃあ、やってみて」と任せても結果は出ません。
ではどのような使い道があるのでしょうか? 華僑的には「口だけの人にはその口で喋らせておけばいい」となります。その人が集めた情報や考え出した作戦を喋らせる。知恵だけ出させて、実行は行動力のある人に任せればいいのです。
とはいえ喋らせるだけでは仕事になりません。口だけの人にはルーチンワークとして考えなくてもいい仕事を与えます。「言われたことを言われた通りにして、それ以外のことは絶対にしてはいけない」と。
口だけで行動が伴わない人は、それを自覚しつつ周囲にバレることを恐れています。ですので、「言われた通り」に動いていることで安心するのです。その上で「言われた通りにできているならば、あなたのアイデアを聞く」とチャンスを示せば、喜んで色んな知識を披露してくれます。
口だけの人でも「言われた通りに」を続けるだけで、このタイプでも成長し自信をつけるというのは筆者も実証済みです。できないと思われていた人が自信をつけると組織に活気が出ます。短期的判断で見放しては損なのです。
リーダーは口出ししないために口を使うべし
後半部分の「用いては疑う勿れ=一旦登用したら信頼して使え」というのが本来の意味ですが、100%信用はしません。100%の信頼は相手に嘘をつかせる原因になるので良くありません。「君には全幅の信頼をしているよ」と伝えてしまうと相手は喜ぶと同時にその期待を裏切ってはいけないという考えが浮かび、失敗などを隠すようになります。
90%信用して任せるといっても、放任ではありません。具体的な目標や期限などを設定し、そこに至る線を引いてあげるのがリーダーの仕事です。やり方は部下に任せ、線上を進む限りは口出しをしない。リーダーが口出しすべき時は線から外れたときだけです。
リーダーがほとんど口出しせずに組織が問題なく回っているなら、それはリーダーがしっかりと仕事をしている証です。現場の人たちが方針を理解し、隅々まで浸透するように、普段から繰り返し伝えられているということになります。
リーダーの中には、「つい口出ししたくなるから、現場にはあまり顔を出さないようにしている」という人もいますが、それは本末転倒です。それではいつまで経っても部下を信じて任せることができるようにはなりませんので、本当に任せたいと思ったら、周知徹底できるまで現場に顔を出し、聞き飽きたと言われるくらい語るべきでしょう。
組織がフラット化してもリーダーは必要
それでは“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。
Xさんは困っています。コンピューターの日進月歩の発達で人間が今までしていた仕事が無くなるとたくさんの記事を目にするのが当たり前になったのに、プラスして外国人労働者が大量に押し寄せてくる。人生100年時代と言われているのに、定年延長しても65歳まで、しかも嘱託の給料激減は合法の判決、年金は期待できない。親の介護の問題や子供の教育のことを考えると将来が不安で仕方ありません。
一人で悩んでいても仕方ないのでM部長に相談することにしました。M部長は役員間違いなしと噂されている“ずるゆるマスター”です。
「という感じで非常に困っています」
「正直に話してくれてありがとう。これからはリーダーシップがとても大切になるよ」
「リーダーシップですか。なんだか懐かしい響きですね。インターネットの普及で組織はフラット化して、リーダーとはなんなのかがわかりにくくなっているように感じます」
「そうだね、リーダー不在の組織が多くなっている。コンピューターの特徴として同時並列的に処理ができるというものがあるけど、組織がフラット化してリーダーが必要ないというのは違う気がするよ。同時並列的に物事を処理する時代だからこそ、リーダーが必要。同時に違う楽器を演奏するオーケストラに指揮者が絶対に必要なように」
「人手不足が続いておりますので、使えない人の採用が増えて困りものです。手を動かさず、口ばかり動かしている人間が増えました。これは話すだけという意味ではなく、メールなどもそうです、実行力に乏しいといいましょうか」
「指揮者は一つや二つの楽器の奏者が下手だからといって演奏を投げ出すかい?」
「いえ、そんなことはありません」
「でしょ。使えないと多くの人が思う人材を使えるから立派なリーダーになれるんだよ。調和が大切」
「私はどうすればいいのでしょうか?」
「まず第一に、一つの軸を立て、それを守り抜く。第二に、できない人も有効に使えるか?」
「思い出しました。礼記の『天に二日無し、土に二王なし』と、韓非子の『下君は己の能を尽くし、上君は人の智を尽くす』ですね」
「よく思い出してくれたね」
「初志貫徹のための朝令暮改は悪いことではない、口だけの人間には決まったルーチンだけ指示してそれを守らせることによってチームの勢いが増す、でした」
「そう。リーダーとなる君がそれを実践できたら、AIも単価の安い外国人労働者の人たちも怖くないよ。ずっと会社や社会から重宝されるから、将来不安なんてどこ吹く風になるよ」
「なんだか、スッキリしました。ありがとうございます」
次の日、ハツラツとした顔でチームメンバーに業務について一生懸命話しているXさんの姿がありました。あれ以来、Xさんはため息をつくことがなくなりました。
豪腕とは程遠いのに常にリーダーのポジションに就くあの人は、朝令暮改しても周りを混乱させず、できないという評価の人もうまく動かす“ずるゆるマスター”かもしれません。
拙著『華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術』では、中国古典の教えをずるく、ゆるく活用している華僑の仕事術を「生産性」「やり抜く力」「出世」「マネジメント」「交渉術」の5章立てで詳しく解説しています。当コラムとあわせてぜひお読みください。
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