「そう言われるとそうです。ですが、昔は若い人間の方から、お酒の付き合いも含めて、教えてください、正しいでしょうか、と質問攻めするくらいがちょうどいい付き合い方でした……」

 「ははは、昔は、というほどR君はおじいさんではないよ。時代は変わる。ダーウィンの進化論じゃないけど、強いものが生き残るのではなく、変化に対応したものだけが生き残る。現代はいつでもどこでもネットに繋がるユビキタス社会だ。部下もわからないことはググって調べるのでいちいち聞いてこないよ。

 それと相手のことを知ろうと思ったら、相手にあなたのことに興味がありますよ、というメッセージをしっかりと出さないといけない。論語に今のR君にぴったりの言葉がある。『人の己れを知らざるを患えず、人を知らざるを患う』だ。中間管理職として解釈するなら『自分のことを嘆く前に、人のことを知らないのはリスクだ』となる。今のR君はリスクだらけかもしれないよ。

 相手のことを知ろうと思ったら、『私は』と話し始めるのは今日からやめて欲しい。『君は』『あなたは』という言葉から部下に対して話すことだよ。相手を主語にすることによって、相手は自分ごととして話を聞くようになる。R君がいつも自分の話をしてくれると部下達に感じてもらうことができたら、必ず、SNSやメールの内容が変わってくるし、ITツール以外でもR君に話しかけてくるようになるはずだよ。当たり前の話だよね。この人は自分のことをわかってくれている、わかろうと努力してくれているというのが伝わるからね」

 「はい、『私は』をやめます」

 「それから。部下や後輩達はR君よりも経験が少ない。だから様々なリスクが想定される。物事について疎かったり、外部要因に惑わされることもあるだろう。間違って道を踏み外すかもしれないし、何かに行き詰まっていることも考えられる。それらをR君が察知してあげてアドバイスをしてあげて欲しい。詖辞、淫辞、邪辞、遁辞を使えば、その予兆を見破ることができると中国古典の孟子に書いてある。少し長いから、後でメールしておくよ、一度読んでみて。景色が変わると思うよ」

 「ありがとうございます。お手数おかけいたしますが宜しくお願い致します。今のお話を伺っただけでも十分にパワーを注入していただけました」

 3週間後、Rさんは今まで鬱々とした表情を浮かべていたのが嘘のように、はつらつとしています。Rさんのデスク周りで部下や後輩が立ち話をし、笑い声も聞こえるようになりました。今までにはなかった光景です。

 ITを駆使しているのに、なぜかリアルでも人が会いにくるあの人は“ずるゆるマスター”かもしれません。 

 筆者の最新刊『華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術』では、中国古典の教えをずるく、ゆるく活用している華僑の仕事術を「生産性」「やり抜く力」「出世」「マネジメント」「交渉術」の5章立てで詳しく解説しています。当コラムとあわせてぜひお読みください。