パート・アルバイト職の時給高騰が続いています。慢性的な人手不足と10月の最低賃金改定を反映してのことです。リクルートジョブズによると平均時給は64カ月連続で上昇しており、昨年春以降は時給1000円超が定着しています。
小売業や外食産業などはパート・アルバイトを多く採用し、その低単価前提のオペレーションで事業をしてきたので、自動化など生産性向上が喫緊の課題となっています。
政府としては、産業界に対して生産性向上を何よりも優先して要求してきたので、このような流れを止めることはできないでしょう。
「歴史は繰り返す」の言葉の通り、どのような状況になってもそれに対応した企業は生き残ります。現代の生き残りの条件は、機械化、自動化をはじめとした生産性の向上を達成することです。機械化、自動化が進み、定着すれば、人手不足と感じない状況になります。そうなった時、企業は利益確保のための施策を打ち出してきます。リーマンショック後に行ったようなことが法律の範囲内で横行します。
来たるその日に「自分のビジネスパーソン人生はなんだったんだ」と後悔しないためにも、心の準備をしておくのも人生のリスクヘッジというものです。一生懸命にビジネスに取り組みつつも、自分を大切にしながら人生を送ることが賢明です。
人に負けたくない、ならまず自分に勝つべし
「人に勝たんと欲する者は、必ず先ず自ら勝つ」
これは『呂氏春秋』にある言葉ですが、人に勝ちたいなら、まず自分に勝つべしという意味です。異国の地でゼロから出発する華僑的超訳をするなら「自分のやっていることに納得していれば、人に負けることなどあり得ない」となるでしょう。
自分に勝つというのは、ほかの誰でもなく自分が自分を認めるということです。自分ではなく他者などと比べるとどうなるでしょうか? 学歴、収入、肩書、会社、結婚相手、家、車、数え上げるとキリがありません。これらはほんの一例ですが、「人と比べてどうか」や「世間的にどうか」などを気にする人は多くいるのではないでしょうか。
人と比べて納得しようとすると、比較対象(誰と何を比べるか)と合格ライン(どこでよしとするか)の設定が必要になります。たとえそれらを達成したとしても、もっと凄い人が現れたらどうなるでしょうか? 永遠に納得できない、満足できない、終わりなき戦いに足を踏み入れてしまうことになります。
実際、そんな戦いに足を踏み入れて疲れ果てている人も多い中、自分を認め、「自分が大好きだ」と言える人は無敵です。
どんな自分であれば自分を認め、自分に納得することができるのでしょうか? 実はその合格ラインを決めるのは自分なのです。人にとやかく言われる筋合いはありませんし、また逆に、それを声高々に宣言する必要もありません。
筆者の例で恐縮ですが、世間でいう高級車に乗っていますが、車を褒められたり、それなりの対応をしていただいたりしても嬉しくもなんともありません。自分が褒めたいのは、若い頃からの憧れの生活を憧れで終わらせなかった自分です。ちなみにファッションはダサいと言われていますが気にしていません、それが私であり、私が納得し、認める私なのです。
華僑にとってお金儲け=成功ではない
私が知る華僑は、老いも若きも同じことを言います。
「人生で確実に決まっていることがある。生まれたら死ぬということ。死ぬときに自分が自分の人生に納得できなかったら、それはどんなにお金儲けをしても成功とは言えない」
華僑といえばユダヤと並び、世界のお金儲けの代名詞にもなっていますので、経済的な成功を第一にしているようなイメージがありますが、実は彼らにとっての成功は、故郷に錦を飾るのも一つ、最終的に自分が納得いったと言える人生を送ることなのです。
華僑の師曰く「お金は自分の能力の証」。
「家族や友たちと楽しい人生を送りたい。親兄弟にも豊かな暮らしをさせてあげたい。自分の望みを叶えるために必要なお金を稼ぐ能力があるかどうか。人よりもたくさん稼げるかどうかは関係ない。一番大事なのは、自分がそのお金を使ってどのように生きたかです」
お金の多い少ないというのは関係ないのです。各個人が送りたい人生にツールとしてどれだけのお金が必要なのか、どのようなプランを設計するのかは、本人にしかわからないのです。
自分に向き合うといっても「なぜ生まれてきたのか?」を考えると、人がどう思っているのか、どう評価されているのか、という全体のパーツとしての自分の存在意義など哲学的な方向に思考がいってしまいます。哲学的思索が悪いことではありませんが、それよりも、「自分はどのように生きたいか」を考えて日々研鑽に励む方が心の衛生上いいですね。
人生に行き詰まったら、それはチャンスの予兆
どのように生きたいか、を考え出すと、何かに行き詰まる可能性があります。もしそのような状態になったら、今、人生の棚卸しのチャンスが訪れたのだと考えるといいでしょう。
人が最も無駄にしている時間は探し物をしている時間だと言われています。定期的に棚卸しをしなければ停滞している時間が増え、さらに本当に大切なものがどこにあるのかもわからなくなってしまいます。
行き詰まるというのは、今、停滞が窮まった状態でそれを打破すべき時がきたのだと教えてくれるサインなのです。サイン、予兆を読み取れるというのは、ビジネスパーソンとして必須のスキルです。
占いの元となっている『易経』の言葉を見てみましょう。
「窮すれば則ち変ず、変ずれば則ち通ず」
意味としては
窮すれば=どうしようもなく行き詰まると
則ち変ず=変わらずを得なくなり
変ずれば則ち通ず=変われば自ずと道が開ける
となります。
今、窮しているということは、次に何かを変える時がやってくるはずです。その変化は、現状を打破して新しい道を開くための大切なプロセスですから、怖がることは何もありません。
筆者も体験した「窮即変、変即通」
筆者も過去に行き詰まり、そして大きな変化を体験しました。
私が行き詰まったのは、サラリーマン生活の終わりの頃です。それまでは時々、褒めてもらえることもあり、毎日同僚や後輩、上司と飲み歩き、結構楽しく過ごしていました。しかし元来強くないお酒を毎日大量に(着座と同時にジョッキ2杯を一気飲みし、生ジョッキ10杯飲んでから日本酒、ウヰスキーなどなど)飲んでいたせいで、身体を壊してしまいました。
めまいが頻繁に起こるようになり、さすがにお酒の量を減らしましたがそれでも酔った時のようなフラフラ感が消えないようになりました。しかし病院での検査は異常なし。
ついに私は変わらざるを得ないようになりました。お酒を完全にやめたのです。そしてお酒をやめた途端、あらゆる物事が好転し始めました。
華僑の師と出会い、ダラダラと勤めていた会社を辞める決意を固め、起業。志を共にするパートナーや仲間にも恵まれ、いろいろなビジネスにチャレンジするチャンスも掴んでいきました。
もちろん失敗もあり、別れもあり、反省は多々あります。それらは身体を壊した時ほどではないにしても、やはり棚卸しのキッカケとなりました。
今では6社の代表を務め、書籍も10冊刊行させてもらっているわけですが、「あなたが望むチャンスを手に入れた方法は?」と聞かれれば、私は迷うことなく「お酒をやめたことです」と即答しています。
筆者の例を挙げることで、お酒をやめましょうとお伝えしたいわけではありません。「窮すれば則ち変ず、変ずれば則ち通ず」なのです。
窮すれば=どうしようもなく行き詰まると
則ち変ず=変わらずを得なくなり
変ずれば則ち通ず=変われば自ずと道が開ける
行き詰まりは、チャンスの兆候なのだということをお伝えしたいのです。
華僑の歴史も「窮」から始まった
華僑といえば本国は中国です。本国で大活躍していれば、当たり前の話ですが、言葉も不自由な海外に出るようなことはしません。祖国で生活に窮し、生きる場所を変えざるを得なかった。生きる場所を変えることによって成功への道が開かれ、世界中で影響力を持つようになったのが華僑たちです。
すなわち、華僑の人生も、華僑の歴史も「窮→変→通」そのものなのです。
窮する→変化する→道が通ずる。
筆者の例でもお伝えしましたが、「窮→通」ではありません。ポイントは「変」です。それも「変わりたいから」ではなく、「変わらざるを得ないから」「変えざるを得ないから」こそ、変わることを受け入れたということに注目して欲しいのです。人為的でない、自然の摂理による変化を経て道が開かれるのです。
変わりたいのに変われないと悩む人は多くいますが、それは変わるタイミングではないのかもしれません。
「変わりたい」より「変わらざるを得ない」が吉
一個人は大きな流れの中に浮かぶ船です。翻弄されるのは良くありませんが、その都度対策を立てていくのが、自然の流れに逆らわないうまくいく要諦です。流れに逆らえないからといって、自分のことをちっぽけに感じる必要は微塵もありません。
元来、日本人は大自然に対して頭を垂れるという、西洋のようなキリスト教などを主体とした神様に跪いて生きるという宗教観ではありませんので、自然に任せるのが王道なのです。
人手不足、機械化、自動化は産業界の自然の流れです。その流れに逆らわず、自分がそれらに通用するスキルを持っていないならば、変わらずを得ない状況ということですので、それに対応するために変われば、道は通ずるでしょう。
逆に、飽きたから、刺激が欲しいから、もっと楽しい生活をしたいからなどの理由によって変える必要のない物事を変えると、その変化によって窮することになるかもしれませんので、注意が必要です。
そのことをわかっている華僑は、うまくいっている物事を変えようと絶対にせず、自然のままに任せます。必要に迫られての変化は「恐れず、受け入れ」、不自然な変化は「恐れて、遠ざける」ことによって納得のいく人生を進めていくことができるのです。「恐れず、受け入れ」「恐れて、遠ざける」を使いこなすことができたら、自然の理通りなので、うまくやっていけるでしょう。
第4次産業革命に翻弄されるか? 転機とするか?
それでは“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。
Gさんは困っています。Gさんは営業推進部の中間管理職ですが、人手不足が続きパート・アルバイトの人件費高騰で損益分岐が従来と変わってきており、上司からの利益を出せの号令が怖く感じることがあります。
つい先日も牛丼大手チェーン店が売上高は過去最高水準だったにもかかわらず、人件費の膨張で大きな赤字を出している記事を読んだところです。
悩んでいても仕方ないので、役員間違いなしと噂されているP部長に相談することにしました。
「というわけで非常に困っており、どうしていいのかわからなくなっております」
「正直に話してくれてありがとう。確かに今は景気は悪くないけど、パート・アルバイトさんの時給は想像もつかなかったくらいに高くなってるね。だけどそのお金が景気の維持や底上げにとても役立っている。パート・アルバイトの人は全就業者の2割を占めるからね」
「働き方改革で私たちは残業が減ったので、時給換算ベースでパート・アルバイトさんと私たちの差は、ほとんどないに等しいと感じております。責任は大違いですが」
「はっはは。G君らしくない発言だね。そんなことを感じてしまうG君は今、変わらざるを得ない時期にきているのかもしれない」
「BPO、RPA、AI、IoTなどなど横文字が並び、会社はどんどん自動化や効率化、海外外注化、コンピュータ化の流れでどうしたらいいのか、不安で仕事が手につかないこともあります」
「先進国の多くは移民大国のアメリカを除いて、速度の早い遅いは別としてどこも少子高齢化は大きな問題だね。だから新興国へのBPOはこれからもっと加速するし、人手不足を補うためにもRPAの普及は進む。それが自然の摂理だから、G君自身が変わるしかない」
「変わる、ですか……。ずっと同じように頑張ってきましたので、変わるのは怖い気がします」
「全部を変える必要はない。上司や部下、同僚との付き合いはうまくいっているようだから、変える必要ないよ。G君は人付き合いが上手だよ、それは絶対に変えてはいけない。変えるべきはG君自身がどのようなビジネスパーソン人生を歩んでいくのかという部分だね。第4次産業革命までは会社で通用することを重点的にやっていれば、それで良かったけど、これからはそうじゃない」
「外に目を向けろ、ということでしょうか?」
「外に目を向けることが重要なのではなく、G君自身がどうありたいか、どうすれば自分の人生、ビジネスパーソンとして納得いくかをじっくりと休みの日にでも考えたらどうだい?」
「以前に教わった易経の『窮すれば則ち変ず、変ずれば則ち通ず』ですね。ということは、今の私はチャンスを目の前にしているということですね」
「そういうこと。よく思い出してくれたね」
「ありがとうございます。今週末は、図書館にでも行って、現在の自分の棚卸しをしてみます」
3週間後、溌剌とした顔でデスクに向かっているGさんの姿がありました。どんな出来事が起こってもドンと構えて頼り甲斐のあるあの人は、「窮する→変化する→道が通ずる」をしっかりと理解している“ずるゆるマスター”かもしれません。
拙著『華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術』では、中国古典の教えをずるく、ゆるく活用している華僑の仕事術を「生産性」「やり抜く力」「出世」「マネジメント」「交渉術」の5章立てで詳しく解説しています。当コラムとあわせてぜひお読みください。
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