当コラムで、初めてのゲストをお招きした。お相手は作家の中谷彰宏氏。『面接の達人』をはじめとする数多くのロングセラー、ベストセラーを生み出し、著作は既に1000冊を超えている。
「自分の読書人生は中谷氏の本との出会いから始まった」とも語る大城太氏。人生の節目には中谷氏の著作に目を通し、そしてそこから大きな刺激を受けてきた。
図抜けた読書家である中谷氏は、中国古典にも精通している。そんな中谷氏に対談をお願いし、これまで当コラムで大城氏が伝えてきたずるゆる処世術を、さらにスマートに活用する術について教えてもらった。その様子を全4回でお伝えする。
中谷彰宏(なかたに・あきひろ)作家。大阪府出身。大学卒業後、博報堂に入社。8年間にわたりCMプランナーとしてTV・ラジオCMなどの企画演出・ナレーションを担当。1991年に同社を退社し、「株式会社中谷彰宏事務所」を設立。ビジネス書から恋愛エッセー、小説まで多岐にわたるジャンルで、数多くのロングセラー、ベストセラーを送り出す。著作は1000冊を超す。私塾【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー・ワークショップ活動を行う。(写真=深澤明、以下同)
【
中谷彰宏公式サイト】
大城:今日はよろしくお願いいたします。
中谷:こちらこそよろしく。『日経ビジネスオンライン』の連載、長く続いてますね。よく読ませてもらってます。
大城:ありがとうございます。コラムでは、伝統的な華僑の教えを、ときには中国の古典を題材に取り上げ、現在風にアレンジしながら、“ずるい”利用方法を紹介させてもらっています。また、最近になって、連載をベースに書籍『華僑の大富豪に学ぶずるゆる最強の仕事術』も出版しました。
中谷:書籍、送ってもらってありがとう。早速に読ませてもらいました。
大城:ありがとうございます。
中谷:僕も中学のときに、中国の歴史物にはまった。中国の兵法が好きだった。中国の歴史物の教養というのは、昔にとどまらないです。現代でも通用する。
大城:今でも変わってないですね。
中谷:みんな中国古典との付き合い方を間違ってますね。例えば『日経ビジネス』でこういうことがありましたと記事で書かれているのと、同じレベルで向き合わないとダメなんですね。漢の初代皇帝の劉邦がこうしたとか、曹操がどうしたとかいうのは、本当に今日の出来事としてとらえて、その意味を考えてみる。昔の話だから、今とは関係ないというとらえ方をしちゃいけないですよ。
中国古典の中には、大事にしなくてはならないエッセンスが存在しているという考え方です。凝縮した濃密度の大事なこと、教えが入っているみたいな。その人たちはもちろん死んでいるんだけど、ぎゅっと濃縮された教えが入っている。
大城:私もそう思います。コラムでは、その教えについて、なるべく平易に紹介しようと思っています。
中谷:今日は、大城さんがコラムや書籍の中で書かれていたことに対して、私が感じたことについて、話しをする形で構わないですか。
大城:はい、その進め方でお願いいたします。
日本人は一番チャンスを逃している
大城太1975年2月8日生まれ。大学卒業後、外資系金融機関、医療機器メーカーで営業スキルを磨き、起業を志す。起業にあたり、華僑社会では知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。厳しい修行を積みながら、日本人唯一の弟子として「門外不出」の成功術を伝授される。独立後、医療機器販売会社を設立。アルバイトと 2人で初年度年商 1億円を達成。現在は医療機器メーカーをはじめアジアでビジネスを展開する6社の代表および医療法人理事を務める傍ら、ビジネス投資、不動産投資なども手掛ける。2016年 3月より日経ビジネスオンラインにて『
華僑直伝ずるゆる処世術』を連載。
中谷:まず、準備不要の復習型で結果を出すという話がありました。
大城:はい。ここ一番で強くなるには、ぶっつけ本番で修羅場を経験、そして復習によってその経験を生かすことを書かしていただきました(『ここ一番に強くなるには「予習をやめる」こと!』参照)。
中谷:往々にして日本人のまじめな人ほど準備を優先している。決して悪いことじゃないんだけど、チャンスが来たときに、それに関しては準備ができてないからといって逃す。またそういう準備型の人って、優等生的なところはあるんだけど、意外に終わった後の復習というのがない。
大城:そうですね。
中谷:世界の中でたぶん日本人が一番チャンスを逃している。外国人なんか全然平気ですね。英語が全然できないのに、「俺できる」と言っているから。
それから、テストの進め方も違う。例えば、日本の自動車免許の教習所は、はんこを1個1個もらいながら進めていく。車でも飛行機でもそうなんだけど。国によっては、自動車免許の教習所はない。テストだけだからね。
大城:アメリカとかそうですね。
中谷:アメリカだと、自動車免許のテストを申し込んだら日程を言われて、それで、「何時にどこどこに来てください。ちなみにクルマは何に乗ってこられます?」って。面白いよね。一応、お父さんが子供を連れていくという形かもしれないけど、自分でクルマで来ちゃう人もいっぱいいる。それでテストでオーケーみたいな。「ああ、できますね」みたいな。
セスナの免許なんかでも、結構クルマと同じぐらい簡単に免許を取得できるから、ほかの国からもいっぱい来ている。免許を持っている方が仕事にありつけるから。そこでは英語がほとんどできない人もいるけど、とにかく早く試験を受けさせろと主張する。日本人だと、あなたはもう受けたらと言われたとしても、準備が万全じゃないからといって断る。
大城:チャンスを逃している日本人は、海外の方と何が一番違うんですか。
中谷:例えば名刺交換をした後、名刺交換で終わってしまうんですね、日本人は。外国人は、アドレスを聞いたらすぐ会いたいと来る。日本人は、後で何もないですね。一応こっちは待っているんですけどね。ただの名刺のコレクターになってしまう。そこで完結しちゃっているということとか。
中谷:あとはしくじった後ですね。日本人はしくじった後そのまま消えていなくなる。本人はもうチャンスがなくなったと思っている。でもそこからまた始まるんだけど、終わりが早い。
大城:あきらめてしまうのが早い。
中谷:ああ、もうここでだめだと。いや、だめじゃない。だめとは言ってないし、むしろ、これからみたいな。でも「何でそんなことするの」と言うと、もう怒っているように聞こえちゃったりするわけです。「何でそんなことするの」って、これは聞いてくれている言葉だから。なのに、「何で」と言われると、「あ、失礼しました」、ひゅーっていなくなる。
中ぶらりんな状態に耐えられないのか、そこで踏ん張れない。これが弱さですね。コンフォートゾーンにずっといすぎる。大陸だったらそんなこと言っている暇ないですからね。全部アウェイだから。
日本は獄門島ぐらいの大きさと思った方がいい
大城:コンフォートゾーンの島国だから、日本人は守られてきているということですかね。
中谷:島国という言葉を言うときに、日本人はまだ37万平米というある程度大きな島を想像しているんですよ。本当は離れ小島なんです。横溝正史の話に出てくる獄門島ぐらいの島。本当に昔ながらの風習が残っているような、そんな小さい島で生きている。
そこの世界では時間が止まっているんです。僕は世界中いろいろなところへサービスの研修に行くんですけど、とにかく島はサービスのレベルが圧倒的に低い。サービスの概念がないから。いらないんですよ、みんないい人だから。
大城:それは日本だけじゃなくて世界の島国も同じですか。
中谷:海外も含めて、島にはサービスの概念がない。みんないい人だから。いい人で成り立っているんです。
大城:日本はおもてなしと言っていますが。
中谷:あれはいい人をベースにした考えで、つまりサービスとは真逆の考え方です。
以前、テレビ番組の企画でピザの取材にイタリアに行ったんです。3日間で15軒のお店を回ってそれぞれのお店のピザを食べたんです。そのとき、ナポリのマルゲリータ発祥のお店に行ったのですが、その日はそのお店が最後の取材だった。だから今日はここでみんなで食べて帰りましょうという話になったんです。せっかくお世話になったから、ここで食べないと悪いじゃないですか。プロデューサーは予算がちょっとみたいなことを言ったんだけど、足りなかったら僕が出すから、みたいに。
ちょっとだけに食べていきましょうという話になって、遠慮気味に食べたんです。食べた後にお会計と言ったら、「あ、結構です」って。しまった、もうちょっと頼めばよかったみたいなことをプロデューサーは考えている。
次の日、今度はナポリ湾に浮かぶ島に行ったんです。そこでも有名なお店を訪ねました。そこのお弟子さんと一緒に行ったんです。昨日のことがあったもので、取材した後に、その日はすごく注文して食べたのです。そしたらお勘定がキッチリ来ました。いい人だからなんです。
ナポリのお店では、サービスをしておけばテレビに映る尺が長くなるという計算をしているわけですよ。一方で、島の人はそんなマリーシア(ずる賢い)なことを考えない。それは払うべきだろうというのと、取るべきだろうみたいな。
だからどっちがずる賢いかといったら、都会の方がずる賢いんです。今後の関係みたいなことを考えている時点でずるい。結果、その方がサービスになっているわけです。
サービスというのは人がいいとできないんです。サプライズパーティーができないのと一緒。サプライズパーティーは黙ってないといけない。でも、事前におめでとうと1人が言ったら終わりだから。1人いいやつがいるだけでもう、台無しなんです。
大城:確かにいい人って、どうしても秘密を守れないような気がします。
準備じゃ足りない、作戦を立てろ
中谷:それと準備型の人間の話でいえば、準備っていうと、ちょっと覚悟が足りないように感じます。たとえば、海兵隊では、準備というよりは作戦というんです。
海兵隊では常に1つのことをやるときには3つ作戦を持っておけという。準備というのはただ情報を集めるだけ。一方で作戦というのが何かというと、その集めた情報に対してこうしようと考えておく。
例えば天気予報を見て出かける。これは準備なんです。だけど今日あそこで雨が万が一降ったら、あそこで傘が買えるじゃないかと考える。これが作戦です。さらに、例えば今日パーティーがある。そこへ傘を持っていく。預けた傘を取りに行く行列に並ばなければいけない。その間にキーマンと話す時間がなくなる。だから傘は持っていかない。これが作戦です。今日の雨が降る確率は、天気予報で何パーセントだと調べる。こんなのは準備にすぎないです。
どんなに寒い冬でも、僕はパーティーにはコートは着ていかない。コートを預けてしまうと、そのコートを取りに行っている間にキーマンと会う時間がなくなるから。これは作戦です。
大城:ビジネスマンに役立つ作戦を、もっと教えていただけないですか。
中谷:例えば接待の達人はお土産勝負です。ゴルフ接待でも土産が勝負。それから帰りのタクシーの押さえ。どんなうまくいっても、帰りのタクシーがなかなか捕まらないのですみませんといったら終わりです。
大城:どんなにいいゴルフコースや食事であっても、最後がだめだと薄れちゃうということですか。
中谷:最後がぐだぐだになると、もうそれまでのが全部帳消しになる。
例えばデートで話題のお店に行こうとする。この場合、テレビで紹介されていたりして満席で入れなかったということも想定できる。だから行く途中で、あそこによさげな店があるなというのを常に探しておかないと。それらはネットでは紹介されてない店だから。歩きながら、ここがだめだったときにあそこかあそこだなというのを、行く途中で見つけておかないといけないです。
これスパイはみんなやっているんです。常に、だめだった場合のことを想定して、二の矢、三の矢を用意しておかないといけない。
大城:ビジネスも同じでしょうか。
中谷:同じです。例えば契約書を出しました。その条件がのまれなかった。ちょっとほかのを考えてきてと言われたときに、そう言われるかと思ってと言って、次のこの契約書ではどうでしょうと出す。
それもだめだったとする。あるセールスマンは17枚用意していた。17枚で落ち着いたんだけど、もっと持っていたと思います。
大城:それはすぐにビジネスマンが使える技ですね。
交渉時にケツカッチンはあり得ない
中谷:夜に大阪で社長とビジネスの交渉があって、次の日、朝一番で東京で打ち合わせがある。その交渉が長引いた。すみません、帰りの電車があるので、と言ったらもうこれで終わり。特に交渉事は最終の電車を見ながらやっているから。最初に「今日帰られるんですか」と何気なしのあいさつみたいな話題をしておいて、こっちのケツカッチンを知って、その時間で押してくるから。これ交渉事の基本ですからね。
だから分かっている人はビジネスジェットに乗るんです。飛行機の時間を知られると海外での交渉は負けるから。決められたエアラインの飛行機じゃなく、自分で好きなときにビジネスジェットで飛べるように。あれはケツカッチンを迫られないための技なんですよ。
新幹線で、今日最終で戻ります。明日朝一でお客さんに会わなければいけないのでと言ったら、相手側は自分に有利に詰めてくる。追い詰めて。時間を追い詰められた方が負けだから。
ある人は最終の新幹線を乗り過ごしたんですよ。そうすると明日朝一のお客様に不義理が発生するんです。朝一の新幹線でも間に合わないから。だからタクシーで帰りました。運転手さんと交渉して、すみません、10万円で東京まで行ってくれと。ここで10万円で東京へ行ってくれと言えるかなんですよ。通常は、いくらで行きますか? いや、行ったことないから分からないと。大体14万円なんです。これを先に調べておくんです。これが作戦です。
大城:今日私の作戦は、傘を持ってきませんでした(編集部注:取材当日は小雨が降っていた)。先生のこのお部屋の雰囲気に合わないと思ったので。もし雨がひどくなったら、どこかで買えばいいと思ってました。
(明日公開の第2回に続きます)
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