「W君はすでに、部下に対策を練られている状態なんだよ。韓非子が面白いことを言っている。『好を去り悪を去れば、群臣素を見わす』。意味としては、君主が好き嫌いを表に出さなければ、臣下は君主の好き嫌いに合わせて自分を飾ろうとせず、ありのままに振る舞うようになる、でいいだろう。これをW君に当てはめてみると、W君は好き嫌いを部下たちに伝えてしまっているので、部下たちはW君が嫌いなことは陰で隠れてする。例えば、W君にわからないようにタバコを吸っている。日報さえ出せば、機嫌が良くなるのを知っているから、仕事の中身ではなく、日報を書くことが目的化しているんだよ。30分前に出勤なんて誰でもできるから、30分前に出勤して既に今日の日報を書いているかもしれないよ」

 「部長の仰る通りだとしたら、生産性が上がらないのは当たり前ですね」

 「怖いね。だから、今からタバコのことは一切言わない。日報に関しては今後自主性に任せる旨をみんなに伝えるんだ、もちろん、30分前出勤もしなくていいんじゃないかな、と少しずつ変えていこう」

 「はい、かしこまりました」

「得」より「損」を使えば、部下は力を発揮する

 「次に困っているのはなんだろう?」

 「そうですね、私たちの世代と比べて無責任に感じることが多いです。部下にお願いした案件でもいつも私が最終チェックをし、ミスや漏れがあれば、私が訂正しております。ですが、時短命令が出たので、それができなくなりました」

 「なるほど。ではもう一つ韓非子の言葉を覚えておいてほしい。『智を去りて明有り、賢を去りて功有り、勇を去りて強有り』。意味としては、賢い上司は自分の智恵・才能・勇気をひけらかさず、部下にそれらを発揮させることによって良い結果を手に入れる、でいいだろう。W君が責任を取ってくれる、W君は実績がある、W君は力がある、と部下が認識すればするほど、彼ら彼女らはその君に甘える」

 「では、今後この流れを変えるために私はどうしたらいいのでしょうか?」

 「簡単だよ。時短で私が責任を持ってチェックできなくなった。ミスや漏れがあれば、チームの責任になる。部下の君たちに責任を押し付けることはしないけど、私よりも君たちの方が先が長いのだから、人事に若いうちから悪いように評価されると損だよ、と伝えるだけでいい。人は快楽を得るよりも、苦痛から逃れる時の方が脳が力を発揮するようにできている。このままだと苦痛が待っていると暗にほのめかせばいい」

 「部長、ありがとうございます。なんだか、とてもスッキリしました。」

 1カ月後、Wさんのチームは驚くほど雰囲気が変わりました。活気があるという表現がぴったりの職場です。時短も達成し、誰から見ても活気のある職場の管理職のWさんも当然イキイキとしています。“ずるゆるマスター”のP部長はそれを見て、Wさんの更なる昇進を確信しました。

 いつも飄々として何を考えているのかわかならないのに、うまくチームをまとめて実績を積むあの人は“ずるゆるマスター”かもしれません。

 筆者の最新刊『華僑の大富豪に学ぶずるゆる最強の仕事術』では、中国古典の教えをずるく、ゆるく活用している華僑の仕事術を「生産性」「やり抜く力」「出世」「マネジメント」「交渉術」の5章立てで詳しく解説しています。当コラムとあわせてぜひお読みください。