雑貨卸会社に勤める企画部課長補佐のRさん。部内の皆から人気の“ずるゆるマスター”の課長Yさんの部下でもあります。Rさんは学生時代に「頭の回転が早い」と仲間内で評判だったのが、自分の心のよりどころでもあります。「俺は頭の回転が早すぎるんだ、周りの人が気付かないこともなんでも気づける」。Rさん本人の自己評価とは裏腹に、社内での評価は中の上あたり。本人が納得いかないのも頷けます、自己評価通りに考えれば。

 企画部という仕事柄、勤務中以外も様々な本を読んだり、ネットで調べたり、流行りの店に行ってみたりと、新しい企画のヒントになりそうなことはなんでも貪欲に吸収しようと日夜努力をしています。そのような努力を継続しているわけですから、部内での新企画プレゼンテーション会で他の社員が斬新なアイデアのように発表していても、ただの思いつきに過ぎないと考え、会社のためと思っていつもしっかりと指摘してきました。

 愛社精神が強いRさんは、上司Yさんが働きやすいようにと他のメンバーのミスも事前に見抜き、訂正を促します。まるでビジネスマンのお手本のような動きをするので、それらをRさんの特徴としてあげる人は多くいます。

「どうしてわからないのかなあ、ひょっとして真剣に考えていないのかなあ」。

 今日も企画会議のあと、Rさんはブツブツと独り言を言いながら会議室を後にしました。「納得がいかない、みんな本気であんなことを言っているのかな? やり手のY課長もなぜ、あんなどうでもいい企画を真面目に聞いているのかが理解できない。今度、直接Y課長に聞いてみよう」。

 「Y課長、少しご相談があるのでお時間ちょっとよろしいでしょうか?」

 「おお、R君。どうしたの? 怒っているの? 少し待ってくれる? T君の例の企画案を見せてもらってからでいいかな。じゃあ会議室に1時間後ね」

 「はい」と言ったものの、心の中では「えっ? T君の企画? さっきの会議であの企画案のダメなところは僕が全部指摘したのに。改善の余地なしだし、その根拠も示したよ。Y課長もなぜこんな時間の無駄遣いをするんだろう」

 1時間後。「R君、お待たせ。話ってなんだい?」

 「Y課長、色々と申し上げたいことがあるのですが、まずですね、会議の時間が長いように感じます。皆が発表するプレゼンはそれぞれの持ち時間が20分ですが、最初の5分も聞けば、何が言いたいのかわかります。それどころか、資料をメールで流すだけで理解できるものがほとんどですので、そのような運営はできないものでしょうか?」

 「ほ、さすがR君だね、最初の5分で何を話すのかを全部わかるとは。それは恐らく発表者の企画意図が5分でわかる、という意味だよね。でもその企画意図にたどり着いた思考プロセスまでは見えないのじゃないかな?」

 「いえ、だいたいの思考プロセスも見えます。それに採用されない企画の思考プロセスを知ったところで、何のメリットもありません」

 「なるほどなるほど。R君の意見、考え方は採用されない企画については思考プロセスを知る必要はない、と。R君は課長補佐なので、いずれは課長になるつもりだと思うけど、課長になったときに部下のみんなをどのように指導して、成長してもらうつもりだい?」

 「Y課長は尊敬しておりますので正直にお伝えします。頭の回転の問題だと思うのです。それは生まれつきというほど、私も自意識過剰ではありません。普段からそれなりの努力研鑽をしていないとちゃんとした企画は出てこないと思うのです。会社は結果がすべてですから、結果がでるようなプライベートの時間の過ごし方を考えるべきだと教えます」

「もうわかった」は可能性を封じることに

 「なるほど、R君の考え方はわかった。じゃあ、もう行っていいかな」

 「えっ、課長待ってください、話は途中です」