匂わせる方法はいろいろとありますが、華僑がよく使う手は、2、3割話して「あっ、そう言えば」と全く違う話をする、という方法です。3割が限界です。これ以上話してしまうと完全に相手は知っている、と思って次の手を考えてきます。

 こうする意図は、牽制機能です。牽制はとても大切です。野球のピッチャーもバッターへの投球もさることながら、牽制球の良し悪しでチーム全体の勝ち負けに大きく左右するのは有名な話ですね。

 「聞かない」ことの二番目の効用は、相手や周りを安心させる、ということです。会話にのぼっていること以外に私は興味がありません、ということが伝われば相手は安心します。安心したところを狙うのも上級者にはいい方法でしょう。そうでない方も、相手が安心した状態で自分に接してくれるのは気分がいいとまではいかなくても、余分なストレスを感じずにコミュニケーションをとることができます。

「話す」にあたっては言葉の意味を吟味する

 話さない、質問しない、といってもすべてにおいて、だんまりを決め込む必要はありません。例えば、営業の人が自社商品のアピールをするのではなく、他社情報や業界情報をしっかりと話すことができれば、お客さんも上司も「しっかりとわかっている人だな」と安心してもらうことができます。他社情報や業界情報をしっかりと理解しているということを話すだけであって、悪口や悲観論を語ってはいけません。目的は、無知ではない、しっかりとした人間ですよ、というさりげないアピールですから、そこでは良し悪しを語る必要はないのです。

 華僑たちが異国の地で活躍するためのズルさを上手く使える理由として考えられるのが、1つひとつの言葉の意味をしっかりと吟味している、ということです。異国の地で言葉が不自由な中で生活をし、ビジネスを行うにあたって、その国その国の言葉を考えることをとても大切にしています。

 例えば、日本の落語などで出てくる「女房と畳は新しい方がいい」というものがありますが、日本人の方が幸せでない解釈をしていることに気付かされます。現代の日本において畳を変える場面というのは減ってきましたが、畳を変えるときというのは、表面の井草の部分を貼りかえたり、裏返したりします。畳の本体を交換することは非常に珍しいケースです。古くなった女房と別れて、新しい奥さんにするという意味ではなく、家事や出産などで所帯じみてきた奥さんに新しい服などを買ってあげて新婚当初のように綺麗にしてあげる、というのが華僑的解釈になります。

 このあたりは「女房とワインは古いほどよい」のフランス人に近いですね。東洋人でありながら西洋人的なものの見方もできるあたりが、グローバルに活躍できる思考の1つの表れかもしれません。

 中国人社会では、「賢い=ずるい」「ずるい=賢い」と表現されることが多くあります。逆に中国人にあの人は「いい人だ」と言われて喜んではいけません。その意味は「あの人は単純だ」と皮肉られている可能性が高いです。

 華僑たちは異国の地でうまくやっていくために狡さを知りつつ、それを使わない。あるいは少しだけ周りの幸せの為に使ってみる。そういう考え方が根底にあり、ビジネス上手と言われるようになっていくのです。部分正解と全体正解を混同しない思考がそこにはあるのですね。「質問力を磨きましょう」と聞くと、すべて質問してしまう、というのは部分正解を全体正解と勘違いしてしまっている事例としては非常にわかりやすいですね。

「会社のためのダメ出し」に上司からダメ出し

 それでは“ずるゆるマスター”の事例をみてみましょう。