「部下が使えない」なら使いたい華僑的ずるゆる作戦

 それでは“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。

 中間管理職のSさんは困っています。長引く人手不足でSさんが若い頃と比べて、会社としての対応が若手に非常に甘いように感じられる場面が多々あり、責任感も感じられず、指導育成するのがバカらしく感じています。

 「使えないメンバーが多いよなぁ。私の仕事が増えるばかりでおかしくなりそうだよ」

 一人で悩んでいても仕方ないので役員間違いなしと噂されている部長のTさんに相談することにしました。

 「というわけで、ホウレンソウをしない、プライベート優先、言われたことしかしない、三重苦で困っております」

 「正直に話してくれてありがとう。じゃあ、一つずつ見ていこうか。まず、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)について。ホウレンソウをしないというのには二つの理由が考えられる。一つ目はホウレンソウの重要性がわかっていない。ホウレンソウは上司が仕事の進捗を管理監督するのが一義ではなく、部下自身の身を守るため、ということを教えてあげればいい。上司にバトンを渡せば、それは上司の責任になるから自分で溜め込まないでね、というメッセージだ」

 「はい、おっしゃる通りです」

 「二つ目は嫌な言い方になってしまうが、S君があまり重要視されていないかもしれない。こういう時の対策は、何か部下が話している間、黙って聞いて、相槌ひとつ打たない、というのが効果的だ。人間も含め、動物の本能として動くものに反応するようにできている。また、相手が似たような動きをしたり、予測できる反応を期待したりしている。でも微動だにしなければ、相手の心理は不安状態におかれる。不安状態におかれると人間は正常な判断がしづらくなるので、全てを見透かされている気分になるものなんだ。S君がなんでもお見通し、と暗に思わせる作戦だよ」

 「なるほどですね、非常に勉強になります」と言って、「微動だにしない」とSさんは手帳に書きました。

 「次にプライベート優先についてだけれども、これは時代の流れだし、ちゃんと仕事をしているのなら、口出しをしてはいけないだろう。プライベート優先で考えている人は、仕事ができる人を見ても『仕事ができるだけでしょ』と思っている可能性が高いから、S君のプライベートな話をできるだけ魅力的に伝えるようにする必要がある。『カッコいいビジネスパーソンは仕事とプライベートが両輪。どちらが欠けてもカッコよくない』どちらも重要ということが伝われば、プライベート優先じゃなくて、両立を意識してくれるようになるよ。

 上司として気をつけるべきは、仕事が疎かになっていないかどうか。叱っても意味はないので、客観的事実として質問すればいい。『それはプライベートを優先したいから?』と。『そうです』となれば、『人事や上司に相談してみよう、いまのポジションだとプライベート重視を尊重できなくなるからね』と。この一言で、その部下の考え方の本当のところを見ることができるよ」

 「面白い詰め方ですね」と言って、「客観的に質問してみる」とSさんは手帳に書きました。

 「最後の言われたことしかしない。言われたことはする、ということだから、S君からどんどん指示を出してもいいかもしれないよ。違う考え方もある。社内競争を推奨するわけじゃないけど、ポストの数は決まっている。S君なら言われなくてもわかっていると思うけど、言われたことしかできないようじゃ、5年後も同じポジションで同じ業務をしている可能性が高いだろうね。ここで注意しなくちゃいけないのは、全員が立身出世志向を持っているとは限らない、ということだよ。総理大臣は絶大な権力を持っているけれども、皆が総理大臣になりたいわけじゃないだろ?」

 「それがダイバーシティを理解する、ということですね。とてもスッキリしました。ありがとうございます」

 2週間後、ハツラツとした顔で張り切っているSさんの姿がありました。目の前のことに一喜一憂せず、淡々としているのにうまくなんでも乗り越えるあの人は、人や組織の心を焦らずしっかりと分析できている“ずるゆるマスター”かもしれません。

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