「私はプライベートを非常に大切に考えている人間です。人がどんなことを楽しんでいるのかを聞いたりするのが趣味のひとつでね、人それぞれだよね、好きなことは」

 「私の小遣いは知れていますので、大きな金額は使いませんが競馬です」

 「へえ、競馬なんだ。競馬って、奥が深いらしいね」

 「そうなんです、血統から始まって育った環境や調教師、レース場によっても違うんです、それだけではなく……」と得意げにYさんは話し始めました。

 “ずるゆるマスター”のD課長は、「もらった」と心の中で笑いました。

 「Y君、ということは過去の古いデータを分析して、その傾向を掴むことや時系列にまとめてその変化を予測し、いろいろな仮説をたてることができる、ということだね」

 「ええ、まあ、そうですね、そうしないと勝てないですから」

 「じゃあ、倉庫にある昔の資料をパソコンにデータ移行して、その傾向を把握して、未来予測をすることは可能かな? でも、倉庫に行くのをみんな嫌がるしね。着任早々、みんなが嫌がることをY君にお願いするのも気がひけるなあ」

 「いいですよ、D課長」

 「無理しなくていいよ」

 「いえ、データ分析は好きです。プレスリリースを書いたり、営業部と折衝したりには苦手意識があったんです」

 「なるほどね、でも埃っぽい倉庫の過去の資料を取り出して、だよ。外注業者さんにお願いしてもいい、と考えているんだよ」

 「課長、私にやらせてください!」

 「わかった。Y君のやりたいことなら、任せるよ。頑張ってね」

 1カ月後、マーケティング2課には各部署からたくさんの問い合わせが入るようになっていました。様々な過去データの照会とその傾向についてです。

 その担当は、もちろんできない人「だった」Yさん。今ではYさんのことを誰もできない人とは思っていません。

「できる」より「やれる」のほうがシアワセ

 “ずるゆるマスター”のD課長の素晴らしかったところは、一見仕事とは関係のない話の中から、Yさんの「やりたい」を引き出し、見出したこと。

 皆が嫌がることでも、自分から「やりたい」と手をあげることによって、後に引き下がれなくなるという要素も当然ありますが、「やりたいことをやらせてもらえる」幸福感を利用するのは、マネジメントの要諦ですね。

 一人で完結する仕事でも、それらの集合体が会社です。会社に貢献する人が評価されやすい人になります。チームのレバレッジを利かせるには、足し算よりも掛け算。ならば、できる人を伸ばすのも大切ですが、ゼロやマイナスを消す作業も同じくらい大切なのですね。

 「できる」を探すのをやめて、「やりたい」を引き出すようにすれば、今までと違う景色が見えるのではないでしょうか?