営業推進本部は旧帝大や有名私大出身者が大半を占めるなか、地方の公立大出身で、目を見張るような実績のないSさんは普通に考えれば抜擢人事で、やっかまれそうなものですが、特にそんな様子もなく、粛々と日々の業務をこなしながら充実した日々を過ごしています。

 そんなSさんですが、入社当時から順風満帆というわけではありませんでした。書くことや文章を読むことが好きで第一志望は出版社での編集だったのですが、その願いは叶わず今の会社に入社したのです。元々、口べたが原因で書くのが好きになったというほど、話すのが苦手なタイプ。 

 ですが、入社後の研修が終わって配属されたのが第1営業部という新規開拓の営業職。入社から3年は予想通り、自他ともに認める売れない営業マンとしてつらい時代を過ごしました。自分の将来に希望がもてず、辞めようかどうしようか悩んでいる時に友人に紹介されたのが、華僑の“ずるゆるマスター”のOさん。Sさんはこれでダメなら辞めようと“ずるゆるマスター” Oさんの指導を仰ぐ事に。

 「Sさん、普通はダメあるよ。周りを見渡して、他の人がやっていることと違うことするね、わかった?」

 「Sさん、難しいことあるね。難しいことは、面倒くさいことであります」

 「Sさん、変なことはしないでね、変なことでなければ、会社の人と反対のことするよ」

 多少、日本語に難のあるOさんでしたが、今までに読んだ本や、営業セミナーで学んだこととは異色の教えを授けてくれました。

 「普通ではないこと」を意識したSさんはまず、皆が昼食をとるのが12時なので、あえて13時半に変更しました。13時半だと、14時に終わるランチタイムの値段でゆったりと座って食べられる事に感動しました。皆が肩を寄せ合い、ぎゅうぎゅう詰めの中で昼ご飯を食べるだけの時間を過ごすのを尻目に、午前中の仕事の整理や雑誌を読んでの情報収集、午後からのスケジュール確認などにテーブルを広々と使いながら有意義に過ごせるようになりました。

 普通でないことは時間管理にも導入しました。他の人たちは先のスケジュールのために手帳を使っているのを、Sさんは使った時間も記入していくようにしました。こうすることによって、自分の体調や集中力がどこで上がり、どんな出来事があれば下がるかを自覚できるようになりました。

面倒くさいことにチャンスがある

 面倒なことにも、次々と着手していきました。社内報が週刊でまわってくるのですが、営業部の大抵の人たちは判子だけ押して読むことはしません。ですが、Sさんはしっかりと読み込んでそれを日報や週報にサマリーを書いて上司に提出するようにしました。これが予想外に上司に喜ばれたようです。人は数字だけでは動かないもの。社内報のサマリー作成を続けていると上司がいいお客さんを紹介してくれるようになり、営業マンとして平均点を取れる様にいつの間にかなっていたのです。