「同調圧力をかける人間にはあらかじめ答えを教えておく、ということでしょうか? なんとなくですが、そのようなことをした方が更に増長して、同調圧力が強くなりそうに思えますが」

 「ははは。そこだよ。S君もその彼の同調圧力を受けている。リーダーは調和を取るために、あらゆることに目を配らないといけない。臆病な人間を同じような環境のまま放置するのはある意味かわいそうなことだよ。『弱い犬ほどよく吠える』という言葉があるよね? なぜ、弱い犬は吠えるんだろう?」

 「はい、怖いから吠えます」

 「その弱い犬を抱きかかえて、安心させてあげたらどうなる?」

 「はい、吠えるのをやめます。あっ、そういうことなのですね」

常に先手を打てば悪い空気は生まれない

 「本当は、誰かが調和を乱す同調圧力をかける前に手を打っておくのがベターだよ」

 「先に手を打つとはどのような感じでしょうか?」

 「先手を打つには、最初からチームありきの対応をすることだね。例えば、メンバーの誰かが手柄を立てたときに、絶対にその一人の功績にしてはいけない。関わったメンバー全員を讃えることによって、それぞれのパートを尊重する空気が醸成される。目立たないメンバーも、そんなに力が伴っていないメンバーも含めて、全員を讃えるのがポイントになる」

 「なるほどですね。思い出しました。以前お話しいただいた『淮南子』の『衆曲は直を容れず、衆枉は正を容れず』ですね」

 「よく思い出したね。そうだ、全体も個も大切。両方への目配り心配りがリーダーには大切。オーケストラの指揮者になりきってみたらどうだい? 一つひとつの楽器の音にも耳を澄ませつつ、全体の調和を作り出す」

 「ありがとうございます。とてもスッキリしました」

 2週間後、ハツラツとした顔で仕事をしているSさんの姿が目につきました。全体に対してモノを言っているのに、抽象的にならず、一人ひとりに指示が行き渡っているあの人は、韓非子の「一聴せざれば愚知分かれず」を使いこなす“ずるゆるマスター”かもしれません。

 拙著『華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術』では、中国古典の教えをずるく、ゆるく活用している華僑の仕事術を「生産性」「やり抜く力」「出世」「マネジメント」「交渉術」の5章立てで詳しく解説しています。当コラムとあわせてぜひお読みください。