そんな紂王を滅ぼしたのが、周の武王です。武王は諸侯の協力を得て紂王討伐の先陣を切りますが、一度目は水際でストップ。「天命はまだ紂王から離れていない」と退いています。

 華僑の師は、そこに悪徳上司を操り滅ぼすヒントがあると言います。「易経のいう『亢竜(こうりゅう)悔いあり』です。天に登りつめた竜は、あとは降りるだけだから悔いがあるという意味です。武王は紂王が登りつめて落ちるしかなくなるのを辛抱強く待った。その甲斐あって紂王討伐に成功したのです。悪徳上司も同じで、欲深く驕り高ぶりやすいので行くところまで行ってしまう。だからやっつけようとするよりは、もっともっと調子に乗らせるように煽るのです」。

 悪徳上司の操縦ポイントはもっと意のままに振る舞わせてやることなのです。悪徳上司は自分の欲望をむき出しにしていますので、常識的な上司が相手の場合と違って、欲望を探る必要がありません。悪徳上司が「ああしろ、こうしろ」と命じるのに対して「仰せのままに」と従うだけでいいのです。

 「仰せのままに」とすることによって、もっとエスカレートするのでは、と心配する人もいるかもしれませんが、驕り高ぶらせるほど、失墜の時期が早まるのです。失墜の時期を早まらせるために従うのですから、理不尽な命令にいちいち感情をかき乱されることもないでしょう。

「立派な上司」は「利」より「義」で動く

 悪徳上司の撃退方法は簡単だとわかっていただけたと思います。では、立派な上司に対してはどのように対処すればいいかをみていきたいと思います。

 立派な上司は、立派であることを誇りにしていますので、内心では私的なメリットが欲しいと思っていても、それをズバリ提示されることを嫌います。そんな立派な(もしくは立派でありたい)上司を操るポイントは、「利より義」で攻めます。

 利益はわざわざ言わなくても、上司が自分で計算します。それよりも、上司の判断がいかに正しく、大義名分が立つものであるかをアピールするのが、賢い(ずるい)方法です。

 「義」とは儒教で説く5つの徳目(仁、義、礼、智、信)の1つで、簡単にいえば「人としての正しさ」です。

 ある華僑は持論として、「中国は昔から大義名分の国」といいます。「表面は道徳で覆って、中身は権謀術数で統制する。そこのところをわかっていないと権力者の心は掴めない。とはいえ、あからさまに言えば嫌われる」。現在の中国政権を見ていると納得する方は多いのではないでしょうか。

 立派な上司にとっての義とは「会社の義」となります。ビジネスですから会社の利益になることは大前提ですが、その上で社是や理念といった会社の義に合致していれば、上司としての大義名分が立つわけです。

 例えば、来期の計画に組み込んでもらいたいプロジェクトがあるが、すでに来期の予定はほぼ決まってしまっている。上司に相談してもやはり「時期的に難しい」と言われたとします。「そういう時期なのは承知していますが、我が社の社是は『顧客第一』です。このプロジェクトは顧客の強い要望を受けたものですし、今やることが顧客のメリットを最大化すると思います」などと伝えてみれば、上司も前向きに検討しやすくなるでしょう。

 立派な上司には、義ですべてを包んで提案していくことです。