ビジネス人生は長期戦です。マラソンと同じように途中まで劣勢だったとしても、大ドンデン返しが日常的に起こります。今回は、気が抜けないライバル競争に勝利するのは応援力!というお話です。
ITの発達により、チームプレーよりも個人の業績を反映させた評価制度が定着してきました。それを表すようにコミュニケーション術やプレゼン術、思考法など、差別化を図るためのセミナーや書籍が盛りだくさんの昨今。社内外のライバルに打ち勝つために様々な方法を試している人は多いのではないでしょうか。
アメリカのコンサルティングファーム出身者が提唱する技、有名大学院のMBAの講義で導入されているテクニックの数々。そのような技やノウハウがたくさんちまたにあふれ、それらの方法論を簡単に手に入れられるようになりました。
ですが、その通りにやってもなぜかうまくいかない、という人は多いのではないでしょうか? ひょっとして私は地頭がよくないのかしら、要領が悪いのかな、あのノウハウは自分には向いていないので違うものを探してみよう、と思われている人もいるかもしれませんね。
これらのテクニック、ノウハウを学ぶのはそれもこれも、厳しい競争社会で勝ち残っていくための方策ですよね。ライバルは蹴落とすもの。そこまで考えていなくても、出し抜いたり、勝つべき相手、と考えている人が多いのではないでしょうか? 場合によっては、口には出せないけれども、ライバルのミスを喜んだり、それを願ってしまったりする自分に嫌気がさすこともあるかもしれません。
ライバルは競争相手であるのは間違いのない事実。ここで間違ってはいけないのが、敵とライバルの違いです。
自動車の販売で考えてみましょう。あなたがAという自動車販売会社に勤めているなら、BやCといった自動車販売会社はライバルではありますが、敵ではありません。同業者は業界マーケットを共に大きくするための切磋琢磨するいわゆる同士的存在でもあります。
では、自動車販売会社の敵とは? ファミリカーなら、同じように家族をマーケットとする旅行業界かもしれませんし、立地至便な賃貸マンションや家族団欒のイメージがある分譲住宅かもしれません。高級スポーツカーなら、高級腕時計や、オーダースーツなどが考えられます。自動車販売会社の例でみたように、敵とは自社や自業界の商品以外にお金や興味を惹かせるモノやコトなのですね。
そもそもライバルは、「応援するもの」と聞けば、驚くでしょうか? そうです、華僑的発想でいけば、ライバルは応援する存在なのです。彼ら彼女らがうまくいくことを願い、応援することこそが、自分自身の成功、立身出世に、ひいては心の安定にも一番役に立つのです。
ライバルは、大きく分類すると2種類あります。1つめは、目に見えるライバル。もう1つは目に見えないライバルです。
まずは目に見えるライバルを2つの角度からみていきましょう。社内と社外の目に見えるライバルですね。
社内のライバルは同期入社のメンバーであったり、違うチームの同じポストの人間だったり。社歴が長くなればなるほど、ポストを巡ってのライバルの対象は増えていきます。
次に社外のライバルを見てみましょう、これは同業他社という場合が多いのではないでしょうか?あなたの会社の属する業界のパイが大きければ大きいほど、同業他社のライバルはそれに比例して多いはずです。
定年退職までの期間を考えた時、若い年代の人ほど長期戦であり、年長の世代の人ほど、小さなミスが致命傷になる可能性が高くなります。年代によりライバル対策は様々な作戦があるように感じますが、具体的に考えてみると、意外と多くはありません。
深く考えずとも思いつくのは、ライバルの失策ですね。あとはコンスタントに社内や顧客からいい評価を得ていること。あまり期待できないのは、ホームランを数発打つ、というような大きく運が絡むようなものになるでしょうか。
どのような作戦、対策をたてるにしても、目に見えるライバルの存在は無視できず、常に頭をよぎる存在のはずです。行き過ぎたライバル心は、まさに息つく間もない状態になり、金属疲労ならぬ慢性精神疲労を起こしかねません。そうならないためにも見えるライバル対策は、意識しすぎない、もしくは自分でコントロールできないので意識しない、というのが正解なのです。
目に見えないライバルは自分自身
ライバルには2種類ある、とお伝えしました。視野狭窄に陥らないためにも、目に見えないライバルについてもお伝えします。
目に見えないライバルとは何だと思いますか? どこにいると思いますか? 実はいつもそばにいるのです。そばにいるどころかもっとも近くにいます。そうです、あなた自身が目に見えないライバルなのです。ライバルの失策、ミスを願うあなたのその心が実は最大のライバルであることにお気づきでしょうか?
目に見えないライバル対策をお伝えします。興味深い話なのでご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、名ゴルフプレーヤーのタイガー・ウッズの話です。タイガー・ウッズは、いつもライバルがショットを打つときに、「入れ」「いいところにいけ」と願っている、というのは有名です。これはスポーツマンシップの美談として語られることが多いのですが、実はこれは脳科学の角度からみると、タイガー・ウッズにとってとても有利に戦うための術なのです。
ゴルフは通常、3人もしくは4人でプレイするスポーツです。自分以外の人間は目に見えるライバルということになります。ライバルに簡単に手っ取り早く勝つ方法は、ライバル達がバンカーにはまりこんだり、パターを外しまくったりすることだと安易に考える人は多いです。
本当でしょうか?
常に入れと脳に言い聞かせる
実はこれは間違いです、なぜならば、ライバルと同じように自分もバンカーにはまりまくったり、パターを外しまくったりすれば、どちらが勝つかはわかりません。ライバルのミスを願えば願うほど、自分もミスをする可能性が高まるということをご存じない方が多くいらっしゃいます。
先ほども書きましたが、ゴルフは複数で競技するスポーツです。例えば、自分以外の目に見えるライバル3人がショットをするたびに「外せ」と願い、自分のショットの時だけ「入れ」と願う。脳への指令の回数は1ホールで「外せ」3回「入れ」1回、ということになります。
ホールが進めば進むほど、「外せ」と「入れ」の数の差は大きくなっていきます。2ホール目「外せ」6回「入れ」2回、3ホール目「外せ」9回「入れ」3回、というようなことが自分の脳への指令として行われています。脳科学を詳しく学んでいなくても、ホールが進むほどに脳が「外せ」に強く反応を示すようになるのは想像に難くないと思います。
最後の18番ホールで勝負が決まる、という大勝負の時に、ライバルの失策を願っている人はそれまで「外せ51回」「入れ17回」、ライバルを応援している人は「入れ68回」のみです。どちらが精神的に優位かは考えなくてもわかりますね。
そういうことなのです。ライバルの失策、ミスを願う目に見えない自分のその心が、最大のライバルになり、自分自身を失墜させる最大の原因となっているのです。
「ずるゆる」マスターはそれをうまく利用します。社内、社外の目に見えるライバルを応援するのです。それは自分自身が活躍するには遠回りに感じるかもしれませんが、そんなことはないのは、先ほどのゴルフの例のみならず、麻雀などでも顕著に出てきます。運の勝負に見えるような麻雀でも最後は強い人が勝つ徹マンなど長くやればやるほど、強い人が勝つのはみなさんご存知の通り。
勝負を決めていたのは「応援力」だったのです。「ずるゆる」マスターは、相手がどのような手をうってくるのかを、楽しみに待ち構えています、応援しながら。それはお人好しからではなく、当然自分のために、です。
応援グセを付けるメリット
わかりやすくするために、具体例を見ながら説明していきます。
医療機器販売会社に勤めるOさんは、日々、病院や診療所を回って、看護師さんや事務員さんから消耗材料の注文を受けつつ、休診時間を狙ってお医者さんに機器類の販売をする営業マンです。休診時間はドクターの休憩時間でもあるので、その間は同業他社の営業マンとの商談時間確保合戦で熾烈を極めます。
日進月歩の医療の世界で最新の機器を薦めるにあたり、ライバルである同業他社営業マンの情報不足は願ってもないチャンスです。例えば他社の営業マンが最新資料の添付忘れなどを行えばチャンスですが、「ずるゆる」マスターのOさんは、あえてその同業他社営業マンの不足情報を補うような動きをしています。そうです、目に見えるライバルを応援しているのです。
そのような姿勢は当然ドクターにも伝わりますから、Oさんの評価はどこの病院でもいいものです。ですが、ビジネス社会は評判がいいだけでは「お人好し」で終わってしまう可能性のある厳しい世界なのは、仕事をしている方なら誰しも認めるところでしょう。
ここでOさんが抜かりがないのは、ミスをした同業他社に「あなたのミスをフォローしておきましたよ」と嫌みのない程度に伝えることを忘れないことです。これはOさんが目に見えるライバルに恩を売ろうとしたり、相手が譲ってくれたりすることを狙っているのではないのがポイントです。
では何を狙っているのでしょうか? 「応援」することによって、自分の不足情報にもすぐに反応できるようにしているのです。応援グセが付いているので、常にお客さんを含め、自分自身も応援する状態にセットアップされていますから、不足情報に敏感になります。
一方で、同業他社の営業マンはまさかライバルの営業マンから「応援」されるとは想定していません。「何かあるに違いない」と考える人も中にはいるかもしれませんね。もしもそう考えるのであれば、同業他社のライバルが自滅への道を勝手に進んでくれるのをOさんは知っていますが、それを願ったり望んだりしている訳ではないことに注目するべきなのです。
こういった業界では、だいたい7、8社で競合になることが多いのですが、Oさんの勝率は約50%。圧勝と言えるでしょう。
応援をしていれば放っておけない存在に
このOさん、社内ではというと、もちろん出世するためには、社外で受注をたくさん取ってくる以外に、同僚などとの勝負に勝つ必要があります。ここで「ずるゆる」マスターのOさんは、同僚も応援します。旬の商品など、みんなが見落としている情報を社内でシェアするのです。
このOさんの貴重な情報を使って、Oさんを上回る業績を叩き出しているYさんがいます。YさんはOさんの同期ですが、Yさんは役員に気に入られ、Oさんよりも昇進スピードが速いです。それでもOさんは貴重な情報の社内シェアをやめません。「ずるゆる」マスターのOさんは「応援力」のパワーを知っているからです。
本当にYさんが優秀なら、先に出世しても貴重な情報源としてOさんを放置するはずがないからです。Oさんの応援があれば、Yさんは更なる出世が狙えます。Yさんが出世すれば、連動してOさんも自動的に出世できるのです。「応援」することによって、社内外に「使えるやつ」というのを人の口を利用して日々宣伝活動をしているようなものです。そうすれば、万が一Yさんに引き上げてもらえなかったときや、会社に何かあって転職するようなことがあっても、すんなりと転職が決まるような効果もついてきます。
このOさんの事例を見て、あなたはどう思われたでしょうか? これこそ、正に古き良き日本の商人の代表格近江商人たちが説いた「三方よし」と似たようなビジネス活動です。
「ずるゆる」マスターになっておいて、たくさんの人を応援していると、何かと対策を打つのに有利になることは間違いないでしょう。今日から、目に入ったもの、人、こと、を応援することを始めてみませんか? あなたもこれで気分良く、「ずるゆる」マスターへと近づくことでしょう。
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