「事情がある、か。なるほど、そう言われるとなんなく楽な気持ちになりますね」

 「そうです、そのなんとなく楽になる、ということの繰り返しが大切なのです。なんとなく楽になるを繰り返せばどうなるでしょうか? もうお分かりですね、話すことが楽になるのです。話せば楽になると思ってもらえれば、こっちのものですね」

 全員がなるほど、という感じで頷きます。

 「楽になると分かれば、徐々にたくさん話してくれるようになります。中国古典の老子に『知る者は言わず、言う者は知らず』という言葉がありますが、意味としては知っている人はあまり話さない、知らない人に限ってたくさん話す、という意味です。自分のミスやトラブルを本人はよく知って分かっているので、話してくれません。ですが、さきほどお伝えした『事情』というキーワードを使えば、本人がよく分かっているミスやトラブルを話すようになってきます」 

上役こそ下の人に頼むべし

 別の人が手を挙げました。

 「今言われたことは非常に納得がいきました。でも私は、部下から怖がられているのを自分で知っています」と苦笑いしながら発言しました。

 「怖がられている理由は、ここでは直接関係ありませんので触れませんが、基本的に部下というのは『面従後言』だと割り切ってください。要は目の前ではかしこまって、裏で何を言っているかは分からないものだ、と。裏で何を言って入るか分からないと言っても、それが悪く言っているとは限らない、と必ず理解しておいてください。

 私にも話しにくい上司がおりますが、嫌いな訳ではありません。その上司に直接話しにくいことは中間に位置する人に伝えてもらっています。皆様は課長さんですので、部下に係長など中間に位置する人がいると思いますが、彼らに聞き役になってもらうように頼んでみてください。これはジェネレーションギャップを埋める意味でも効果があります」

 3週間後、満面の笑みでPさんは“ずるゆるマスター” W部長のデスクの横に立っています。「部長、先日はご同行ありがとうございました。例の会社さんですが、とてもいい雰囲気になってきました。課長の方たちの働き方といいますか、輝き方と言ってもいいですね、素晴らしくなりました。意思決定のスピードも格段にアップしました。過去の事例と照らし合わせると、半年後には業績が20%アップすると思います」

 「そうか、よかったねP君。そろそろ君も中間管理職を卒業して部長になるか? 先日の役員会議で僕は役員になることになった。後任にP君を推薦しておくよ」

 ハッキリとした物言いで見方によっては厳しい人に見えるのに、なぜか周囲から情報が集まり、仕事も早いあの人は、様々な事情を熟知している“ずるゆるマスター”かもしれません。

 どれほど世の中が変わっても、いつの時代でも通用する華僑の「ずるい=賢い」処世術は、拙著『華僑の大富豪が教えてくれた「中国古典」勝者のずるい戦略』でもたくさん紹介していますので、ぜひそちらも参照していただき、あなたも“ずるゆるマスター”を目指してみてはいかがでしょうか。