「社長はワンマンという噂でしたが、それは自覚されていて、今回は口出しをせず役員に任せるとおっしゃっています。ですので経営陣は前向きで協力的なのですが、中間管理職の人たちの気持ちの切り替えに苦戦しております」

 「なるほど、それはちょっと根深いかもしれないな。この10年、日本企業は中間管理職の人たちをないがしろにすぎた。中間管理職こそ日本企業を支えてきたんだけどね」

 「そうなんです。日本企業の強さは中間管理職にあったのですが、当の中間管理職の人たちが『どうせ、中間管理職ですから』という感じなのです。役員が一致してコンサルティングに協力的な会社さんは業務改善をやりやすかったのですが、今回の会社はどうも勝手が違います」

 「わかったよ。課長さんクラスの人に集合していただくことはできるかい? 僕が彼らと話してみよう」

課長たちの「事情」とは?

 「課長の皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。お忙しいと思いますので、早速本題に入りたいと思います。ビジネスは武器を使わない戦争と言われるくらい競争が激しいのは皆様、ご存じだと思います。現に人件費その他の安さを武器にアジア勢が皆様の会社を苦しめています。

 中国古典に『天下を争う者は必ず先ず人を争う』という管子の言葉がございます。意味としては、『戦いに勝とうと思えば、二つのことを意識すればよい、その二つとは、人材の獲得と人心の掌握である』という感じです。人材の獲得すなわち採用は役員や人事部の方の担当のお仕事になりますが、人心の掌握は、課長の皆さんの担当になります」

 そこで、出席者の一人が手を挙げました。

 「ちょっといいですか? 人心の掌握と言いますが、最近は会社が情報共有システムを導入していて、直接話すことが減り、部下たちが何を考えているのかが分かりにくくなってきました。昔は一緒に残業した後に一杯飲みに行ってそこで色々と話をすることもできましたが、今はそれもかないません。それに、最近は仕事以外の話を社内ですることも難しい雰囲気になっていますしね」

 「ご意見ありがとうございます。会社のシステムは業務事項の共有にはもってこいのツールというのはお分かり頂けると思います。それはそれで大いにご活用ください。これは他社さんでも同じなのですが、パソコンやスマートフォンなどのIT機器の普及で逆にコミュニケーションがとりにくくなった、という声は山ほどあります。だからこそ、コミュニケーション能力の違いが業績の違いを生むのです。IT機器の弱点はなんといっても感情が伝わりにくい、誤解を生みやすい、間違って伝わることがある、ですが、それを補完するためには、従来通りの対面のコミュニケーションがとても大切になってきます」

 「言っていることは分かりますよ。でも部下たちは自分の小さなミスは正直に話してくれないので、問題が大きくなって、役員・部長の耳に入れておかないといけなくなってからしか発覚しないのですよ。で、責任は私たち中間管理職のせいになってしまう」

 出席者の半分くらいがウンウンと同意を示す頷きをしています。

 「そこですね。『事情』はよくわかりました。今仰られたのは管理職の皆様の事情ですね。実は部下にも、部下なりの事情があるのです。彼らが話してくれないのにも事情があるのです。それはお分かり頂けますね。誰にでも事情がある。だからそこを突いてみてください。部下と話す時に必ず『君にも色々と事情があるでしょ、分かるよ』と言ってください。魔法のようですが、それを少し続けるだけで彼らから出てくる言葉が変わってきます」