「できない人」はミスをしても叱られない

 これも具体例を挙げて説明しましょう。ご登場いただくのは、「ずるゆる」マスターを自覚するアパレルメーカーに勤めるPさんと、できない経理マンDさん。

 仕事は遅く、ミスも多い50代のDさんは、当然のごとく社内では肩身が狭い存在です。ただし、「ずるゆる」マスターのPさんはAさんと、月に1、2度は帰りに一緒に安酒を飲みに行く間柄でした。

 あるとき、Pさんは重大なミスを起こしてしまったのです。得意先全情報の資料と経費精算のエクセルファイルをなんとパソコンから削除! ここのところ残業続きで疲れがたまっていたのか、とんでもないことをしてしまいました。

 直属の上司に相談すれば、査定に響く。かといって身近な同僚に相談しても、結果は似たようなもの、と簡単に想像がつきます。

 困ったときのDさんです。「Dさん、とんでもないことになってしまいました。どうしましょう」。ことの一部始終をPさんは正直にDさんへ話しました。

 「P君、僕は会社から評価されていないのは自覚していますよ、そのミスは私がしたことにしてもらってもいいですよ。あなたは将来有望だし、こんな僕と飲みにも一緒に行ってくれる、いつも感謝してるよ」

 申し訳ないと思いながらも、自分の保身のためDさんと一緒に作業していたことにし、どちらがミスをしたのかは分からない旨を直属の上司に報告。

 話はQ部長にまでいくことになり、「ああ、やっぱり無理か」とあきらめていたところ、呼び出しをしたQ部長は開口一番「Dさんとやったのか、しょうがないなあ、頼む相手を間違えるなよ」で終了。

 Q部長は最年少で部長まで上り詰め、次の人事異動では役員抜擢もささやかれている人です。睨まれたら、会社員人生は半分終わったようなものです。

 その出来事から3週間ほどが経ったある日、Q部長がPさんの耳元でささやきました。「Dさんは本当にいい人だよね、僕は知っているよ。感謝の気持ちを一生忘れちゃいけないよ」。Q部長もPさんと同じようにDさんにお世話になったのかどうかは不明ですが、「ずるゆる」マスターは、Pさんではなく、間違いなくQ部長だったのです。

 「できない人」は必要なのです。仕事が「できない人」なのであって、そのできない、というレッテルをしっかりと守っている人なのです。あなたの周りにいるできないさん、できない君を大切にしましょう。これが理解できるようになると、あなたは一段と「できる人」に近づくでしょう。

 「できる」と評判のあの人はもう既に、このことに気づいているのかもしれません。