課長になれば、個人の業績ではなくチームの業績でボーナス査定がされるため、同じ営業チームのエースU君の実績も考慮される。教育費や住宅ローン、親の入院費と出費が重なっているEさんの現状はかなり金策が厳しく、なんとしても来年からは脱出したいと考えていた矢先でしたので、ショックは相当なものでした。

 結果的にこのショックがEさんにとって復活ののろしを上げる原動力になることになりました。Eさんはショックで頭がしばらく動転していましたが、華僑の例の話を思い出したのです。「できない人」を大切にする、というアレです。

 それを思い出したEさんは即行動を起こしました。「できない人」と言われている営業業務部A係長の元へ走っていったのです。

「できない人」は時間があるから頼める

 「Aさん、最近調子はどうですか? 私は新規顧客がなかなか開拓できなくて非常に苦戦しています。なんとかならないものですかね?」

 「Eさんたちは大変ですね、私はご存知の通り一生係長ですよ、場合によってはリストラされるかもしれません。評価の低い私が言うのもなんですが、新規開拓せずとも休眠客の再掘り起こしの方が効率が良さそうですが、誰もしませんね。営業業務部には2年前まで取り引きのあった休眠客のリストがあるのですが。やっぱり意味がないんですかね?」

 「そうか、その手があった!」。Eさんは小踊りしたい気持ちを抑えAさんに尋ねました。

 「Aさん、その資料を10年さかのぼってって印刷していただくことはできますか?」

 「はい、そんなことでしたら1人の女性スタッフと私で、1週間もいただければ仕上げられます」

 休眠客のリストを使っての営業活動は、新規開拓とは比べ物にならないくらい効率の良い作業でした。当然です、2年前までは付き合いのあった会社ですから、新規取引には必要となる会社説明から先方の信用調査、支払いサイトなどほぼやることがなかったのですから。しかもお互い知らない関係ではない、というおまけ付きです。

 2カ月後、EさんはエースのU君と肩を並べるくらいの業績をコンスタントに出せるようになっていました。そんなEさんを週に1回は次長がアフターファイブのお誘いをしてくれるようになり、来年の課長昇進は約束されたようなものです。

 その度にEさんはA係長に心の中で頭を下げるとともに、この厳しい状況の中、なんとか家族を守れることに安堵しています。

 A係長は、普段は「できない人」の役割をしっかりと果たしている人ですが、無能ではなかったのですね。前述したように、評価というものは相対的ですので、「できない」と言われている人イコール無能とは限らないのです。彼はEさんの恩人のみならず、会社の業績にも見えない形で貢献しているのです。

 この経験から、Eさんは自分が課長に昇進した後も、Aさんを大切にしようと心に決めています。