誰もが長期間にわたって継続して高パフォーマンスを維持できるワケではありません。調子が悪いときに、自分が落ち目やスランプになったと思われないためにも「できない人」を大事にしておくメリットはあります。また、部署の業績悪化などの際にも、「他部署に異動させられるのではないか」などとビクビクして仕事に集中できない、という状況を回避できます。

 また、No.2、No.3と呼ばれる人も「できない人」あっての存在なのです。決して、「できない人」を排除してはいけないのです。「できない人」を排除していくと最後には自分に「できない人」という順番が回ってくることになります。

 そうなのです。最初に書いたように、「できない人」には「できない人」という役割があり、その「できない」という仕事をきっちりとこなしてくれている人なのですね。

スランプの際にすがったのは「できない人」

 具体例を見てみましょう。

 中堅専門商社に勤めるEさんは、営業部で課長補佐という中間管理職としてバリバリ仕事をこなす40代です。Eさんの社内での評価は最近うなぎ登りです。少し前まではスランプ気味だったのですが。Eさんがスランプから脱することができたのは、あの人のおかげだったのです。

 あの人とは、万年係長の呼び声高い、A係長。営業業務部所属のA係長は、営業部の日々の活動記録や受発注などをEさんの女性の部下たちに交じって行っています。

 営業社員が得意先情報を照会しても資料が出てくるのが遅い。営業全体会議で指名されると毎回決まったように「その件につきましては私では分かりかねます」をオルゴールのように繰り返す。誰がどこからどう見ようが、「できない人」の典型。「あの人に頼むと仕事が進まないんだよね」と陰口も言われる。EさんもA係長の悪口を言っている1人でした。

 彼らの会社は果物を中心に輸入し、国内の各チャネルに納品する、という仕入れ値が為替に大きく左右される業種です。昨今の円安によって営業部にとっては非常に厳しいビジネス環境になっていました。仕入れ値が高くなったからといって、それを価格に転嫁するのは難しく、売上、利益ともに下がるのを食い止めるのに必死の状況が続いています。

 Eさんにも「為替のせいにするな、売上、利益を確保するため各自工夫せよ」の檄が日々飛んできます。営業部全体が得意先訪問回数を増やしたり、新規の取引先を獲得したりするための努力を日夜し、なんとか売上、利益を確保すべく奮闘しています。

 そんな中、昔は得意だった新規開拓が全くできない日々が続いているEさんに、ついに次長から呼び出しがかかりました。「E課長補佐、今のままだと来年の課長昇進が難しいのは分かってるよね」と次長はそれだけを告げると席に戻るように促す手振りをしました。