部下を縛るルールが自分の首を絞めていた

 「わかってくれてありがとう。話は変わるけど、R君は独身貴族を謳歌しているそうだね(笑)」

 「貴族とはおこがましいですが、よろしくやっているのかもしれません」

 「そのよろしくやるためのコツっていうのはあるのかな?」

 「コツというほどでもありませんが、執着しすぎずに、相手の要望や希望を尊重し、そうですね、簡単にいうと遊び心をお互いもてるように、緩いつながりを意識はしています」

 「なるほど、すごいね、さすがだね。実はその素晴らしいテクニックは、仕事でも使えるんだよ。これは史記に書いてあるんだけれども、『柱に膠(にかわ)にして瑟(おおごと)を鼓す』という言葉があるんだ。意味はね、大きな琴がぐらつかないように柱に接着剤で留めた、でも固定できたのはいいけれど、音を調整する時に動かせないので結局その方が大変になる、という例えで使われている。もっと噛み砕いていうと、動かないように固定してしまうと後で修正ができなくなる、本末転倒になることもあるので、遊びをもたせようということかな。オペレーターのみんなを十把一絡げで管理しようとしてルール、規則をたくさん作れば作るほど、オペレーターのみんなは当然のことながら、R君にとっても窮屈な職場になってしまう。何か思い当たる節はないかい?」

 「あります。化粧直しや髪型のチェックは1時間おきの休憩時間にすることとし、デスクには鏡を出してはいけない、という規則をつくりました。あと、集中力の妨げになったり、サボることにもつながるスマホのチェックも禁止にしました、あとそれと」

 「もういいよ、R君。プライベートではうまくよろしくやっている君らしくない仕事の進め方だね。そういった自主性でなんとかなるものまで口出しするようになったら、よくないな。できるなら、ルールや規則は少なくしていく方向で考えられないだろうか」

 「次長、恥ずかしいです。今、気づきました。自分で自分の首を絞めていたことを。明日から早速改めます。次長に相談に乗っていただき、なんだか明日からの出勤が楽しみに思えてきました」

 「R君は素直で素晴らしいね。最後にこの言葉を送ろう。『功を立て業を立つるは、多くは虚円の士なり』だ。これは事業を成功させたり、功績を認められたりするのは、素直で謙虚な人である、という意味なんだ、期待しているよ」

 翌朝すぐにRさんは部下のみんなを集めてK次長の指示通り、今までの自分は間違っていたことを全員に詫び、丁寧すぎるほどに話しました。そして困ったことがあればなんでも申し出て欲しい旨を伝えました。 

 “ずるゆるマスター”のKさんの素晴らしいところは、Rさんに実地で指導したところです。人に固定概念をもつな、人のことをしっかりと知るようにしろと伝えても変な猜疑心が生まれるだけです。Rさんが自分で気づけるタイミングで“ずるゆるマスター”のKさんは中国古典の言葉を引用して自ら気づかせるのに成功しました。

 「功を立て業を立つるは、多くは虚円の士なり」

 「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」

 「柱に膠(にかわ)にして瑟(おおごと)を鼓す」

 この3つの言葉が教えてくれるのは、ガチガチに固めてしまわない「ゆるさ」という余裕が、自分も周囲も幸せにするということです。そんな周囲にもメリットをもたらす“ずるゆるマスター”になるためには、その名の通り、ずるいだけでなく「ゆるさ」が必要不可欠なのですね。その「ゆるさ」は、拙著『華僑の大富豪が教えてくれた「中国古典」勝者のずるい戦略』にも全編にわたって紹介していますので、ぜひそちらも参照していただき、“ずるゆるマスター”を目指してみてはいかがでしょうか。