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 華僑が重んじるのは、兵法書の『六韜』にある「謀の道は、周密を宝とす」です。自分が何をどのようにして成そうとしているのか、狙いや策略は心中に秘してこそ良い結果を生む、という解釈でいいでしょう。

 そこで華僑は沈黙するスキルを磨き、前述したように自分は「陰」のポジションを取り、相手を「陽」に立たせます。相手に喋らせ、相手の言葉に従う形で相手の心を操って行くのです。

「不自然な沈黙」を演出する上級テクニック

 「黙る」スキルは聞き出すスキルに限りません。黙ることで暗に「受け入れの意を伝える」ことも「拒否の意を伝える」こともできますし、不自然な沈黙を演出することによって相手を動揺させ、不用意な言葉を引き出すこともできるのです。

 華僑の師も沈黙で相手に喋らせる事が得意です。筆者も何度喋らされたかわかりません。

 例えば、師から請け負った仕事でミスをした時などは、筆者はあれこれ言い訳を並べ立ててごまかそうとしましたが、師は相づちの一つも打たず、ひたすら沈黙するのみです。

 筆者は降参して本当のことを白状したにも関わらず、師は沈黙したままです。焦った筆者は別の仕事を格安で引き受けると余計なことまで口にしてしまった経験があります。

年明けは人の心が変わりやすい節目

 それでは“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。

 Kさんは困っています。新年になり心機一転、今年は頑張ろうと気合いが入っていますが、それは他の皆も同じ。心機一転しているので、今までの付き合いで蓄積してきた相手の情報がまた違う方向に向かっているような感じを受け、どのように対処していけばいいのかわからなくなっています。

 新年早々悩んでいても仕方ないので、O部長に相談することにしました。O部長は役員間違いなしと噂されている、みんなから人気の“ずるゆるマスター”です。

 「というわけで年明け早々悩んでおります」

 「正直に話してくれてありがとう。その感覚は見当違いでもないと思うよ、さすがK君だ。以前から伝えている陰陽のポジションの話は覚えているかい?」

 「はい、勿論でございます。孫子の『善く戦う者は、人を致して人に致されず』ですね。陰のポジション取りをして、相手の情報をうまくキャッチし、自分が主導権を握る、というやり方です」

「よく覚えていたね、さすがだよ。で、それがわかっていれば、六韜にある『謀の道は、周密を宝とす』の実践あるのみだよ。こちらが何を考えているのかをわからせないように、上手く話を進めていくんだ」