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 「何事も表裏一体だと私は言っているでしょう。あなたは、こうしたら得するよと社員に見せて動かそうとしているわけですね。でもあまり効果がない。だったら反対のことも形にして見せてあげればいい」

 「得を見せても動かないなら、損(災い)をわかりやすく見せればいいということでしょうか?」

 「得か、損か。人間を行動させる動機としては、損をしたくないという動機の方が強力、得をしたいという気持ちよりもね。とはいえ損も得もどっちも動機になるのだから、どっちも使えばいいのです。損得セットで考える、私ら華僑のビジネスの基本中の基本です」

 この教えを私は自社のボーナス制度に取り入れました。一般的にボーナスは過去半年間の目標達成度合いに応じて支給されるものですが、我が社では実績が確定する約1カ月前に、これくらいは達成するだろうと仮定して先に支給します。もし達成できなければ、その分を返金するというルールです。

 一度自分のものになったお金を返すのは嫌だと、社員たちは期日までに何が何でも目標をクリアすべく努力します。そこで私がやるべきは「災いを避ける知恵」、つまり不達成を回避し返金せずに済む知恵を与えることです。

 お尻に火がついた状態で助け舟を出せば効果抜群です。積極的に教えを吸収して成長してくれますので、仮の実績を少々高めに見積もっても大丈夫です。今まで返金になった例はありません。「能動的に動いてもらいたい」という私の願いが叶うと同時に、社員も利益と成長を手に入れられ、ウィンウィンです。

「本音で話そう」と言っても本音は出てこない。なぜか?

 人の心を操る上で大切なこと、欠かせないこととは何でしょうか? それは「相手の内心を知る」ことです。

 「人の心を操るのがなぜ難しいか? 単純な話、心というものは外からは見えないからです。見えるのは本人が見せようとする部分だけ。無理やり見ようとしたら、偽物を見せられる。相手が進んで見せてくれないとしょうがない。だから、そもそもですけど、心を操ろうとする前に本当の心を誘い出す必要があるわけです」

 華僑の師はこのように前置きして、人心操縦の基礎基本であり要である「陰陽の法則」を伝授してくれました。「陰陽の法則」を知り、使いこなすということは、人間関係における主導権を握ることとイコールです。

 「善く戦う者は、人を致して人に致されず」。有利に戦いたいなら自分が主導権を握るべしという『孫子』の有名な言葉ですが、私たちは無意識に、相手に主導権を握らせている事があります。

 例えば、相手の本心を知りたい時の「お互い本音で話そうぜ」という誘いかけ。これはいわゆる返報性の原理に基づく誘いかけです。こちらが本心を見せれば相手も本心を見せてくれるだろうと、相手の誠意に期待しているに過ぎません。相手に期待するのですから、主導権は相手にあります。本心を明かすも明かさないも相手次第なのです。「本音で話そう」という誘いを逆手に取られて、本音を装った偽物を見せられる可能性も大いにあるという事です。