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 日本企業の代表格の一つのトヨタが2019年に販売事業を根本から見直すと発表しました。毎月一定額を支払えば複数の車を乗り換えられるサブスクリプション(定額制)サービスを始め、販売店を拠点にカーシェア事業にも乗り出します。「CASE(connected、autonomous、shared&services、electric)」という次世代概念が変容を迫っているからです。

 日本を代表する自動車産業が変わらざるを得ないくらい、世の中の変化の波は非常に大きく早いです。対応が遅かったり、誤ったりすれば、とんでもない事が起こるのは想像に難くありません。それはどの業界に属するビジネスパーソンにも言えることではないでしょうか。

 ですが、時代がどのようになっても、人対人のコミュニケーションの重要性は変わりませんし、それを制するものがビジネスも制します。決定は人間がするものだからです。特に説得できたり、納得を得ることに長けている人、つまり心をつかんで人を動かすのが上手い人はいつの時代も生き残るのです。

メリットを説くだけでは、なかなか人は動かない

 力づくでなく人を動かすには、相手に何らかのメリットを提供する必要があります。
それは多くの方が理解しているでしょう。ですが、メリットを説いても思い通りに相手が動いてくれないという経験も、多くの方がお持ちなのではないでしょうか?

 「これは君が得するためだよ」「これをしたら○○が手に入るよ」など、相手のためになることを言ってもイマイチ効果が表れない、そんな経験が私にもあります。

 社員がもっと能動的に働いてくれるよう、頑張るほどに得をするインセティブの仕組みをつくり、功績を立てればみんなの前で表彰し、立派な肩書きを与え、儲かれば高級料亭へ連れて行く。頑張れば得られる色々なメリットを形にして見せ、向上心を刺激してきたつもりですが、私が期待するほどの効果は見られませんでした。

 そこで華僑の師に相談したところ、授けられたのが「智は禍を免るることを貴ぶ」という『三国志』にある言葉です。

 その時の会話を再現してみましょう。

 「色々な知恵の中でも、特に災いを避ける知恵の価値は高いのです。できる人は、問題を解決することよりも、問題を未然に防ぐことを大事にしています。けれど、多くの人は、何か事が起こってから知恵を絞ろうとする。なぜかと言えば、多くの人は災いが目に見えないうちは動かないからです」

 「はぁ。それが社員のモチベーションに関係していると……」