「規則正しい睡眠」は本当に必要か?

 「規則正しい生活」を推奨する考え方の人は、必ずや「規則正しい睡眠」が大切だと言い、できれば7〜8時間の睡眠が望ましいとか、PM10:00〜AM2:00が睡眠のゴールデンタイムだといった説を主張していることが多いものです。これらが根拠薄弱な俗説にすぎないことは、昨今、さまざまな実験で明らかにされてきていますが、それでも未だに、「まとまった睡眠をとることが望ましい」と考えている人は、決して少なくないかもしれません。

ピダハンのユニークな世界を描きだす科学ノンフィクション『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4622076535/" target="_blank">ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観</a>』。ピダハンの生活様式を知ると、欧米的な普遍幻想が根底から崩れ落ちていく
ピダハンのユニークな世界を描きだす科学ノンフィクション『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』。ピダハンの生活様式を知ると、欧米的な普遍幻想が根底から崩れ落ちていく

 アマゾンの奥地に居住するピダハンという少数民族がいます。驚くべきことに、この民族は、まとまって寝るということをしません。一度に2時間程度の睡眠を何度も昼夜問わずとるのですが、それを皆で交代交代にとるような生活をしている。つまり、彼らにとっては断眠が普通なのです。

 アマゾンのジャングルで暮らす彼らにとって、まとまった時間寝てしまうことは、とても危険なことなのです。なぜなら、ジャングルに棲息する毒蛇やら猛獣やらが、いつなんどき襲って来るかわからないのですから。彼らのおやすみのあいさつは、「寝るなよ、ヘビがいるから」という言い方なのです。

 このピダハンの例はあまりに極端なものかもしれませんが、それでは、スペインやイタリアなど世界各地で広く行なわれているシエスタはどうでしょう。これは、帰宅してゆったりと昼食を楽しんだ後に数時間程度とるお昼寝の習慣なのですが、彼らはその分宵っ張りで、夜の睡眠時間は短めです。

 日本でもその昔、お昼寝は少なからず当たり前の習慣であったのです。農家などでは特に、陽の高い真昼は直射日光が激しくて仕事にならないので、お昼寝をして英気を養っていたわけです。

 このようにいろいろ考えてみると、睡眠についても、私たちはもっと柔軟に捉えて良いのではないかと思うのです。

「昼夜逆転」にも意味がある

 特に精神科医が問題視することが多いのは、「昼夜逆転」です。そんな生活リズムを放置しておいたら治らないし、治っても会社や学校に行けなくなってしまうのではないか、と。しかし、これも根拠のない、誤った思い込みにすぎません。

 状態が良くなってくると、特別に意図して努力などせずとも、自然に昼夜逆転は解消してきます。また、状態が改善して復職や復学が決まると、復帰当日からそれに合わせたリズムに身体は戻してくれるのです。

 むしろ「昼夜逆転」が起こっている場合に考えなければならないのは、その現象がなぜ起こっているのかという「意味」なのです。

状態が良くなってくると、特別に意図して努力などせずとも、自然に昼夜逆転は解消してくるもの(写真:vencavolrab78/123RF)
状態が良くなってくると、特別に意図して努力などせずとも、自然に昼夜逆転は解消してくるもの(写真:vencavolrab78/123RF)

 これまで多くのケースを診てきて、一つ確実に言えることは、「昼夜逆転」が心理的な防衛反応の一つであるということです。考えてみれば当たり前のことなのですが、精神的に不調で自宅療養せざるを得ないクライアントにとって、世の中の人たちが仕事に従事したり、学校に行って学業に励んでいるような日中に、特にすることもなく気力もない状態で、漫然と家で過ごさなければならないのは、かなり精神的拷問に近いものなのです。活動的な世の中に人たちと動けない自分を比べてしまって、劣等感や罪責感に苦しめられてしまいやすいのです。ですから、そんなヒリヒリする日中の時間を、寝てやり過ごしたくなるのは実にもっともなことなのです。

 逆に、世の中の人たちが休んでいる夜中の時間は、そのような精神的苦痛を感じにくい穏やかな時間なので、かえって起きていたくなるのです。

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