現代に生きる私たちにとっては、腕時計も壁掛け時計も当たり前のようにあって、スマホにもPCにも時間表示があり、「時間」を正確に知ることは実に容易です。もちろん、目覚まし時計もあるし、スマホ等のアラームで起床時間を決めることもできます。
しかし、このように時計が整備されたような環境は、一体いつからあったのでしょう。
時計がここまで万人にとって身近な存在になったのは、悠久なる人類の歴史において、かなり最近のことに過ぎないのです。
古代から日時計などはあったものの、それは人々の生活に今日のように浸透したものではありませんでしたし、中世になっても、都市の中心にある教会などの時計台や鐘によって、大まかな時間を知る程度のことしかできなかったのです。

その後、家庭の中に振子時計などが置かれるようにもなっていきましたが、やはり人々に時計が密接な意味を持ちはじめたのは腕時計の登場以降でしょう。
腕時計が初めて開発されたのが19世紀初めで、一般的に人々に普及したのは何と、第二次世界大戦以降なのです。
『遅刻の誕生』(橋本毅彦・栗山茂久 共著/2001年、三元社刊)という本によれば、時間に対する厳密さが人々に求められるようになったのは、鉄道のダイヤ運行の必要があったためだったようです。それにしても、この本の書名からもわかるように、現代人が恐れる「遅刻」という概念すら、昔はなかったわけですね。
いずれにせよ、時計の時間によって人々の生活が規定されるようになったのは、かなり最近のことであることは間違いありません。
また、わが国においては長らく、日の出から日の入までを6等分した不定時法という時間が用いられていたようで、何と、季節によって1時間の長さ自体が伸び縮みさえしていたのです(下図参照)。

このように考えてくると、生活に密着したものとしての「時計の歴史」自体、かなり日が浅いのですから、「規則正しい」にこだわるような考え方の歴史も、ごく歴史の浅いものなのです。
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