この特性を逆手に取った商品が「VIXインバース」です。VIXインバースの価格は、先物指数と反対の動きをするので、1月までは右肩上がりで上昇していました。Kさんに商品を薦めた営業マンは、このような先物指数の特性を販売のセールスポイントにしていたのではないでしょうか。

 ところが2月に入って株式相場が急落し、VIX指数が急上昇。それに伴い先物指数も1日で2倍に上がりました。このため、VIXインバースETNは、それまでの上昇分を吹き飛ばす急落になった訳です。

早期償還条項が意味するもの

 ここで株式市場に関する知識がある方は、「あれっ?値幅制限(ストップ安)はないのだろうか。1日で価格が96%も下落なんて、おかしくないか?」と、疑問に思われたかもしれません。

 実はKさんが購入した商品は、値幅制限が適用されませんでした。その理由は、VIXインバースETNに付されていた、以下のような早期償還条項に抵触したためでした。

VIX短期先物インバース日次指数が前日終値の20%以下になった場合、本ETNは償還される

 この条項だと、ETNは早期償還により上場廃止となる。保有していた人は、売却して損失を確定しなければなりません。

 確かに商品説明のパンフレットには、早期償還条項が記載されていた。でも、これってすごく違和感がありませんか? なぜなら、インバース指数が前日の20%以下になることが、発生確率はともかく“想定されている”からです。

 ちなみに、東証に上場されている他のETNには、このような早期償還条項はありません。いかにVIXインバースETNが特殊な、超ハイリスク商品なのかが分かります。きっと先の営業マンは、そのようなリスクに関して、しっかりと説明していなかったのでしょう。

 私は営業マンの説明不足だけでなく、この商品を組成した証券会社と、上場を承認した東証の責任も問われると思っています。

VIXインバースの逆だったら儲かる?

 VIXインバースETNの説明をしてきましたが、インバースの逆、つまりVIXに正の連動をする証券もあります。「VIX短期先物指数(VIX短先)ETF」という上場投資信託(ETF)です。では、このETFを保有していれば、利益を上げることができたのでしょうか。VIX短先ETFの価格は、以下の算式の通り。

VIX短先ETFの価格 = 前日のVIX短先ETFの価格 × VIX短期先物指数の前日比変動率
※円換算の部分は省略

 この式からすれば、VIXインバースが96%あまり急落した2月6日には、VIX短先ETFの価格は2倍に急騰しているはずですが…。

 実際はどうだったか。2月5日~9日のVIX短先ETFの価格推移を表した下のグラフを見てみましょう。市場価格が実際に取引された終値で、理論価格は算式に基づいて計算された価格です。

 2月6日を見ると、市場価格と理論価格で大きく乖離しています。2月6日の市場価格は、1万1790円から1万4790円まで上昇していますが、上昇率は25%程です。一方、理論価格の方は2倍近く上昇しています。

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