さて、70歳以降の両者の収入はどのようになるでしょう。下の表の通り、繰り下げの方がトンチン年金よりも、年間51万円程多くなります。ただ、両者ともに老後の生活資金としては十分であると言えるでしょう。

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 また、上の結果から繰り下げの方が有利かというと、必ずしもそうではありません。この結果は、夫婦が共に生存していることを条件にしているからです。もし、夫婦のいずれかが亡くなってしまったらどうなるでしょう。

 トンチン年金の場合は、加入者が亡くなってしまうと年金の支給は終わってしまいます。また、公的年金の繰り下げでは、夫が亡くなると遺族厚生年金が妻に支給されますが、その額は、夫の老齢厚生年金の4分の3で、さらに繰り下げによる増額分は反映されません。

 したがって、下の表の通り、夫が先に死亡した場合の妻の収入は、トンチン年金では月額18万円、公的年金の繰り下げでは月額16万円となり、トンチン年金の方が有利になります。

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 このように、トンチン年金と公的年金の繰り下げは、夫婦の年齢差、健康状態などの様々な条件によって、どちらを選択するか判断する必要があります。下の表に両者の留意点をまとめたので、参考にして下さい。

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公的年金はインフレに対応する

 上の比較で、特に強調したいのは賃金、物価に連動するか否かという点です。経済の状態が通常であれば、これから20~30年後の物価というのは今よりも高いはずです。そうすると、トンチン年金の実質的な価値は減少する可能性が高いと言えるでしょう。

 それに対して、公的年金の方は、マクロ経済スライドという年金額を抑制する要因はありますが、物価や賃金の変動にある程度は連動する仕組みになっています。私たちは、長期にわたるデフレを経験してきているため、インフレに対する警戒感が鈍っているかもしれませんが、この点は忘れてはいけないことだと思います。

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